人の長寿命は医学の進歩の賜物と言えますが、日本今、未曽有の高齢化社会を経験することになりました。介護、福祉の問題が深刻さを増す中で、認知症や寝たきりなど日常生活に援助を必要とする高齢者が増加しています。
「認知症症状の進行を遅らせる」 「寝たきり老人を減らす」 「社会活動 の参加意欲を高める」「孤独感を低減する」など、高齢者の生活の質の向上(クオリティ・オブ・ライフ)を目指すための真剣な取り組みが必要です。
加齢に伴う認知機能及び身体機能の衰えや、記憶力の減退した高齢者に対するアニマルセラピーの効用が注目されています。
高齢者介護施設におけるアニマルセラピー活動の効果として、参加している高齢者に笑顔がよみがえった、入所者と入所者、入所者と施設職員、入所者とボランティアとの間で会話が増えた、などの現象が報告されています。
動物は高齢者の心身が健康でない状態であっても、偏見をもつことなく高齢者に近づき接します。高齢者は自分に近づく犬や猫に心を開き、動物に触れることで活力が湧き、生活意欲を高めることができます。
◆高齢者のアニマルセラピーで減少するもの
孤独感、血圧、コレステロール値、中性脂肪レベル
◆高齢者のアニマルセラピーで増加するもの
笑顔、コミュニケーション、運動量、社会活動への参加意欲
心の動きは身体機能にも効果をもたらします。高齢者を対象としたアニマルセラピーで特に注目されるのは生理的な効果です。
動物に接することによる情動が、視床下部を通じて自律神経系、内分泌系に有意に作用し、血圧の低下やストレスの軽減、免疫の促進、認知症症状の進行を遅らせるなど、医療では成し得ない効果も期待できるのです。
クオリティ・オブ・ライフ (QOL)
クオリティ・オブ・ライフとは、ある人がどれだけ人間らしく自分らしい生活を送り、どれだけ人生に幸福を見出しているか、ということを評価する概念です。
物質的な豊かさだけではなく、良好な人間関係や精神面を含めた生活全体の豊かさを問います。近年では高齢者福祉や介護活動の現場で「生きがいや幸福感の確保」を意味する語として使われることが多くなりました。
高齢者セラピーの課題
高齢の笑顔や会話の増加はセラピーの実施時だけで終わるのではなく、高齢名の日常生活に反映されることが理想です。セラピー活動は継続的に繰り返し行われることによって高齢者の 「生活の質の向上」が期待できます。
さらに高齢者に対するアニマルセラピーの効用の科学的な検証も必要で、より効果的なセラピー活動を支援するためのシステム化も必要です。
施設飼育型セラピー
日本ではボランティアがセラピー動物を伴って高齢者施設を訪問する施設訪問型セラピーが一般的です。入所者に対するセラピーの効果を質的、量的に考えた場合、施設訪問型よりも施設飼育型が望ましいことは明らかでしょう。
海外の高齢者施設では、入所者がペットを飼育することを奨励し、高齢者がペットと共に過ごすことで生活の質を高め、老化を遅らせる効果を期待する手法が多く採用されています。
日本の多くの高齢者施設がかかえる問題として入所者の高齢化があります。高齢者介護施設の数が十分ではないために、必然的に施設には介護度数の高い高齢者が優先して入所する傾向があります。
入所者の平均年令、介護度数はともに高くなり続けています。施設によっては多くの入所者が「寝たきり」で、動物の世話ができる状況ではないのが現実です。
入所者の身体能力、スペース、施設職員の負担増などを考えた場合、一般的な日本の高齢者介護施設で施設飼育型と呼ばれるアニマルセラピー活動を実現することは困難な状態といえます。
ペットロスへの配慮
生活を共にしてきた動物を喪失することは、誰にとっても悲しく、相応のショックが伴うものですが、高齢者の身に起こった場合にはとりわけ深刻で、ショック症状が日常生活に支障をきたし、体調を崩して治療を必要とする域に達することも充分に考えられます。
動物との関わりが親密であればあるほど、ペットロスの症状は重篤となります、生活空間が狭くなりがちな高齢者の場合には、ペットとの関わり方が極端に親密であることが多いのです。
高齢者施設で高齢者自身がペットを飼育するケース、高齢者施設で施設が飼育する動物に接するケース、高齢者施設で訪問してくる動物に接するケース、の順で動物との親密度は浅くなると考えられますが、ペットロスを回避、または影響を少なくすることが可能なケースでは、セラピー活動の手法に配慮が必要です。
施設訪問型のセラピー活動では、訪問日によって動物を入れ替え、高齢者個人と特 定の動物の関係が過度に深くなることを予防することも考慮すべきでしょう。
一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
わんわん相談員の詳細はこちら