イヌの祖先はオオカミ?

近年の分子系統学、動物行動学などによると、イヌの祖先はオオカミであるという説が有力とされています。オオカミ以外のイヌ属動物の遺伝子の関与は小さいという結果が出ているのです。


人間がオオカミを家畜化した


イヌという動物は、人間がオオカミを馴化し、人間に都合の良い性質を持つ個体を人為選択することで成立したと考えられます。イヌ属には、オオカミのほかにコヨーテと複数種のジャッカルが含まれます。

これらの動物間には地理的な要因による生殖的隔離が見られますが、人為的には相互の交雑が可能であって、その子孫も繁殖力を持ちます。

このことを根拠として、かつてはオオカミ起源説のほかに、ジャッカル起源説、ジャッカルとオオカミの多元説、すでに絶滅したパリア犬やオーストラリアに現生するディンゴのような野生犬祖先説などが提唱されていました。

オオカミ起源説


オオカミ起源説とは、犬は約15,000年前にオオカミを家畜化したのが始まりであるとする学説で、近年の遺伝子工学を駆使した研究でもほぼ裏付けられました。

オオカミは形態的にも生態的にも、犬に最も近いとされています。オオカミ起源説の根拠とされてきたのは次の通りです。

・骨格の共通性
・歯の数
・指の数
・目の瞳孔収縮の形態
・集団行動をする
・繁殖力のある雑種ができる
・妊娠期間が同じ
・体温調節の方法
・なき声

オオカミ起源説の根拠のうち、特に注目されるのは次の3つです。

①オオカミと犬は両種間で自由に繁殖し、その雑種もさらに繁殖力を有すること。ロバの雄と馬の雌の一代雑種(ハイブリッド)がラバであるが、異種間の雑種であるラバは繁殖力を持たない。

ただし雑種間繁殖の生殖メカニズムの類似性のみで捉えた場合には、他の学説の根拠ともなるので決定的なものではなかった。

②野生のイヌ科動物の中では、オオカミに最もよく似ていること、特にヨーロッパオオカミは形態的に非常に犬に近いことが指摘されていた。

また、北方系の犬にはオオカミ的形質が入っていることが古くから信じられていた。ただし日本犬の祖先をニホンオオカミと考えるのは正しくない。

③米国の動物学者が最近実施をしたところによると、オオカミの子を捕らえて飼育すると、犬と同様によく人間に慣れる、など。

オオカミ以外の起源説


イヌの起源についての学説は、オオカミ起源説の他に複数のものがありました。

①ジャッカル起源説

イヌの祖先は南ヨーロッパ、アフリカ、熱帯アジアに分布したキイロジャッカルが起源だとする単元説である。キイロジャッカルは人家付近をうろつく点で生態的にはイヌに近いが、上顎臼歯基部など頭蓋の特徴が明らかに犬と異なっており、形態学上、難点が指摘されていた。

②ジャッカルとオオカミの多元説

ダーウィン、ローレンツなど多くの学者は形態的にはオオカミ、血液学的にはジャッカルに注目し、ジャッカルとオオカミの多元発生説を立てた。コンラート・ローレンツはオーストラリアの動物行動学の権威で、1973年ノーベル賞を受賞している。ローレンツは後にオオカミ単元説に変わっている。

③原始的なイヌ祖先説

北アフリカ、南アジアに分布するパリア犬、オーストラリアのディンゴなど、原始的な野生のイヌが起源だとする説で、犬はイヌ属の共通の祖先から発生し、後にオオカミやジャッカルの混血があったとするもの。


野生犬ディンゴ・パリア


オーストラリアのディンゴ、エジプトや熱帯アジアに生息しているパリヤ、極地のそり犬などは、本来の生活条件に近い生活をしているので、家イヌとは別の野生犬として分類されています。

ディンゴは約5万年前に東南アジアから初期の移住民たちによってオーストラリアに持ち込まれた家イヌの子孫で、そのため形態学的には熱帯アジアに主として分布するパリア犬との関連が強いのです。

ディンゴは何千年間もオーストラリアで野生生活を続け、フクロオオカミの餌となっていたワラビーなどを捕食したために、生存競争に敗れたフクロオオカミなどのオーストラリア在来の珍獣が犠牲になったと言われています。

ある地域の食物連鎖の一部が単純に入れ替わった例として注目されています。ディンゴは先史時代にアジア一帯に生息していた犬の残存種として貴重な研究材料でもあります。


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