しつけの必要性と時代の変化

家庭犬を取り巻く環境は、近年大きく様変わりしています。日本が高度経済成長期に入り、人々の犬に対する「意識」と「飼育形態」が大きく変化したことによって、法律すら変わることになりました。

その最も大きな変化が「屋外飼育」から「室内飼育」へと移行したことです。屋外で飼う場合と室内で飼う場合では、飼い主の意識に格段の差がありました。屋外で飼う場合、犬は言わば「番犬」の役割を果たしており、しつけに関しては、見知らぬ人を威嚇することが出来れば良かったのですが、



犬が室内で飼われるようになると、否応なく「教育」が必要となりました。何故なら、屋外で飼われていた犬を、そのまま室内に招き入れることは難しかったからです。

そのため、従来の犬の飼い方とは違った、まったく新しい動物を飼う感覚での犬の飼育が始まったのです。この頃になると、「訓練」という言葉は「トレーニング」に置き換わり、訓練を行う「訓練士」も「トレーナー」と呼ばれるようになりました。

日本には、犬の「しつけ」と「訓練」という言葉があります。これらは概ね同じ意味なのですが、厳密に言うと「しつけ」とは、幼犬にマナーを教えることを意味し、「訓練」とは、大型犬に警察犬訓練をするようなイメージを抱かせます。

しつけと訓練

しつけと訓練は、犬が習得すべき科目や習得程度の差として区別され、一般的な愛犬家には「しつけをすれば訓練は不要。」と考えられていました。その結果、飼育する人の多くが犬を我が子のように可愛がり、充分な教育を施さないことによって、多くの家庭犬は「家庭の中では良い子」でも、「外では問題児」となっている場合が多々あります。

そういった社会とペットの関係についてあまり積極的に論じられることはなかったのですが、近年、「手に負えない」「大きくなり過ぎた」などの理由で愛護センターに引き渡され殺処分にされる犬の数は非常に多く、もし適切な時期に適切な「教育」を施していれば、その数は格段に減っていたと思われます。

人とペットの関わり方としつけ

人とペットの関わり方については、欧米先進国の「ペット文化」を、もっと早くから採用すべきであったという指摘があります。欧米では古くから、犬が人と同じ部屋で暮らすのが普通でした。そのため日本でいう「室内犬」や「そと犬」という区別はありません。主に狩猟民族であったヨーロッパ諸国では、犬を猟犬として利用するため、特別で高度なしつけを必要としていましたが、農耕民族であった日本人にとって、犬は番犬であればよく、特別なしつけを必要とはしていなかったのです。しかし人と犬がごく近い距離で共同生活を営むには、人と人との関係のようにお互いにルールを守ることが必要になってきます。

欧米、特にヨーロッパ諸国では、犬の飼い始めることは犬のしつけを始めることを意味しています。飼い犬が他人に障害や損害を与えた場合のペナルティも大きく、社会道徳としてごく普通に、すべての飼い犬が一定水準のしつけを受けています。また、「飼い主が最もトレーナーにふさわしい」という考え方もヨーロッパでは共通しており、特別な目的のトレーニングを除いては、飼い主が犬と共にスクールに通い、一定期間、一緒にインストラクターから指導を受ける方式のものが多いのです。

しつけの日本の現状

近年、日本でも家庭犬が社会との関わりを持つ機会が増えてきました。積極的に犬を外に連れ出すことがなくても、予防接種やグルーミング、ペットホテルなど、家庭を出て、家族以外の人と接点を持つことが多くなってきたからです。また、犬を連れてのレジャーやスポーツも盛んになったため、家庭だけでなく、むしろ地域社会での適正行動をめざしたしつけが必要になったとも言えるでしょう。

また、人とペットが一緒に暮らす共生社会においては、「手がかからなければ良い」というような個人的に満足する範囲ではなく、迷惑をかけずに人間社会に適応できる水準まで犬の能力を高める必要があります。

実は犬の潜在能力は人間が想像しているレベルをはるかに超えたものです。嗅覚が人の何倍であるとか、速く走ることができるというような、人間との比較はさておき、正しい順序で与えられたしつけの課題を習得する能力は絶大なものと言えるでしょう。しかしそれはトレーナーが犬の能力と可能性を信じて犬に接することによって初めて引き出せるものであるとも言えます。犬もトレーナーを信頼するからこそ課題を受け入れるのではないでしょうか。

マンションなどでペットを飼うことが普通になりつつある現代では、ペットのしつけは特別なことではなくなりました。これまではペット美容師の養成が中心であったペット関連専門学校でも、家庭犬トレーナーの養成課程を新設するところが増えてきました。家庭犬トレーナーという資格がトリマーと同様、もしくはそれ以上に脚光をあびる日も近いと思われます。


一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
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