アニマルセラピーとは、人が動物と触れ合うことによって生理的、精神的に安定を得ることや、運動機能の回復効果が得られることを目的とした活動のことをいいます。
人類は長い歴史の中で動物と深いかかわりをもって暮らしてきました。現代人を取り巻く文明がいかに進歩し、人類が宇宙の仕組みを解明するまでになっても、人もまた、限られた寿命をもつ動物に過ぎません。
人も動物の一員として、同じ仲間である動物に接することによって気持ちが落ち着き、心がなごむことは古くから知られています。すなわち人と動物は、単に居場所や時間を共有してきたにとどまらず、お互いに精神面での交流を可能にする領域「絆」を育ててきたと考えられます。
近年、人が動物と接することによって発現する心身の変化や現代人に内在するストレスを軽減する効果を医療に役立てようとする研究が盛んになっています。
人と動物の間の 「絆」 を深める試みによって、 人の心身両面の健康回復に役立てようとする活動が「アニマルセラピー」です。
アニマルセラピーの効果
日本でのアニマルセラピー活動の歴史は浅く、現時点では社会の注目度も高いとは言えません。また、現在のアニマルセラピー活動に対する医療機関や従事者の理解も充分とは言えないため、医療の目的でセラピー動物が使われる例は少なく、アニマルセラピーの学術的、統計的な分析も充分ではありません。
この分野の研究では、日本は欧米諸国に比べて大きく立ち遅れていると言わざるをえず、アニマルセラピーの効果についても欧米での報告例を取り寄せて注目している段階です。
近年、アニマルセラヒーの効用についての報告例や論評に接する機会が多くなってきましたが、逸話的、体験談的なものも多く、医療分野で活用するとなると学術的な検証が必要な事例も多くあります。
アニマルセラピーの効果を客観的に評価することが困難である理由には、次のような事柄があげられます。
◆いつでも誰にでも一元的に効果が現れると言うものではない
◆同じ条件で比較実験することが困難
◆精神的効果を数値化することが困難
アニマルセラピーの効果
アニマルセラピーの効果としては、生理的効果、心理的効果、社会的効果の3つが考えられます。
生理的効果
アニマルセラピーの効果として最も注目され、医療分野で期待されているのは生理的な効果です。
人が動物に接することによって起こる感情の動きは視床下部を通じて自律神経系、内分泌系に作用します。その結果、血圧の低下、不安状態の解消、ストレスの軽減、コレステロール低下、免疫促進などの効果があると報告されています。
血圧を下げる作用については報告例は多く、人が動物を撫でていると血圧に変化が現れ、最高血圧が1 0 mmhg低下したとの報告もあります。
心疾患に影響を及ぼす危険因子を、ペットを飼育している人と飼育していない人で比較した場合、血圧、コレステロール、中性脂肪値がペットを飼育している人の方が低いという資料もあります。また、熱帯魚や鳥を眺めるだけでも血圧が安定するという報告もあります。
人が動物に対して関心を示し、働きかけることによって日常の運動量が多くなったり、発語が増える効果があります。
体を動かすことが望まれるリハビリテーションに手ごろな大きさの動物を介在させることは有効と考えられます。
心理的効果
人は動物と接することによって 「自分が動物の保護者である」 と言う意識をもち、動物のために「自分の存在が必要」 と考えるようになることで、自分の存在価値を高めることに繋がります。
動物が無条件に自分を受け入れてくれることによって、相互に信頼感が生まれ、孤独感の解消やストレスの軽減に役立ちます。
動物と接することによって、命の大切さを再認識し、道徳的教育効果も大きいといえます。
高齢者は一般に人と接する機会が少なくなりがちですが、動物と接することによって社会的交流を求める気持ちが満たされる効果もあります。
一般に動物への愛着の強い人はうつ病になりにくく、幸福感が強い傾向があると言われています。ペットを飼育している人は飼育しない人に比べ、自分の幸福度、健康度を高く感じている傾向があり、この度合いはペットを飼育している人が高齢になるほど顕著になっていくようです。
人と人が面接する会場にあらかじめ犬や鳥などの動物を配置することにより、コミュニケーションが円滑になるなどの効果も認められます。
生理的効果と心理的効果は密接に関係して発現することが多く、心理的効果については個人差も多いといえます。
社会的効果
人が動物と接触したり、飼育することによって隣人との話題が生まれ、会話が促進されます。一般に、人はペットを伴った人に対しては気軽に声をかけやすい傾向にあります。
ペットを飼育している人は必然的に外出の機会が増え、外出先で人的交流が生まれて社会活動が促進される効果があります。(社会的潤滑油効果)
盲導犬や介助犬の活躍によって障害者の生活の質が向上し、行動範囲が広がって身体的、社会的自立に役立っています。
動物を飼育することによって動物愛護の気運が高まり、動物虐待を防止して凶悪犯罪を抑止する効果が期待できます。
野生動物を観察することにより、人が生態系に興味をもち、環境保全の気運が高まる効果もあります。
特に年少者では動物の飼育に関わることによって、他者への思いやりの気持を育み、自然や環境に配慮する生活習慣が養われ、社会生活に適応しやすくなって精神的成長に有意に役立つと考えられます。
一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
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