カウンセリングの障害

カウンセリングの過程において、相談者が、無意識に両親など過去に自分にとって重要だった人物に対して抱いたものと同じ感情や態度をカウンセラーに対して向けることがあります。この現象を「転移」と言います。



転移


転移とは、過去の未解決の感情(肉親への感情や嫌悪感など)が、無意識の内に現在の人間関係の中で再現される現象で、精神分析的カウンセリングの進行過程で必然的に起こる現象のことです。現在の出来事が、現在とは無関係の過去の出来事によって影響を受けているのですが、本人はこのことに気づいていません。傾向としては、些細な出来事に対して、無意識の内に過去の未解決の感情を上乗せし、過剰な反応をする、などがあります。

転移感情は日常生活の中でよく見られる現象であり、相談者が抱えている深層心理と深い結びつきがあることから、カウンセラーはその転移の出所を解釈したり分析することで、カウンセリングに役立てることができます。

陽性転移と陰性転移


転移の解釈は、精神分析治療の根幹とされています。転移には「陽性転移」と「陰性転移」があり、陽性転移の場合は感謝、尊敬、信頼など陽性の感情を示し、陰性転移の場合は恨み、軽蔑、不信など陰性の感情を示します。また、この相反する感情が同時に表現されることもあります。

転移は、退行、同一化、投影、置き換えなどの「適応機制」と同時に表現されることが多いものです。カウンセラーは相談者の無意識の転移感情を見逃さないために、常に白紙の状態で相談者と対峙することを心掛けなければなりません。相談者が自分の心理的問題に立ち向かい、転移を克服した時にこそ、カウンセラーとの信頼関係が深まりカウンセリングの効果が高まります。

逆転移


転移とは逆に、カウンセラーの側に未解決の心理的な問題があった場合、カウンセリング場面において、カウンセラーが相談者に対して転移を起こしてしまう場合があります。これを「逆転移」と言います。

逆転移は、相談者の転移感情に対してカウンセラーが私的に感情を持つことを言い、カウンセリングに悪影響を与えるため排除すべきものと言えるでしょう。

現代の精神分析では、逆転移の定義はさらに広げられ、面接中にカウンセラーが抱く感情の全てを含むものと解釈されています。逆転移をカウンセラーが鋭敏に自覚することによって、相談者側の転移感情とそれをもたらしている相談者の内的世界を分析することが可能になります。

固着


精神分析理論において「固着」とは、リビドー(人の行動を無意識的に規定する心的エネルギー)が特定の発達段階に停滞し、古い行動の型が固定して、新しい行動の型を学習したり獲得したりすることが妨げられる現象のことを言います。

固着が生じる原因は素質的要因、人格の発達段階における精神的障害、外傷体験などにより、各発達段階でリビドーが十分に解消されなかったり、逆に過剰な満足が与えられたことにあるとされています。

精神分析理論では、さまざまな精神疾患、不適応行動は、過去の発達段階における強いストレス体験などにより、その不安や葛藤が身体症状や行動的病理に置き換えられて発現していると考えられています。

固着があると、成長後に心理的に処理できないような感情やストレス、葛藤を抱えた場合、心理状態が固着点にまで退行してしまいます。その結果、幼稚で未熟な「防衛機制」が働き、程度が過度になると精神症状が形成されることになります。発達段階における固着と臨床疾患は密接に関連し、固着が神経症状や異常行動となって現れることも多くあります。

フロイト以前では、神経症は心の外傷が原因であると考えられていましたが、フロイトは、固着(解決されずに残ってしまった無意識的願望)こそが神経症の主要因であると考えました。固着は、満たされたい気持ちが強いほど、そのことに執着するこだわりとなって、性格形成に反映され、神経症の原因になると考えられています。

治療抵抗


心理的な問題を解決するためにカウンセラーのもとを訪れたにも関わらず、相談者が治療過程が進むことを無意識に拒絶してしまうことを「治療抵抗」と言います。

相談者は意識上は治療を望んでいますが、面接によって無意識の領域に目を向けることが苦痛で、無意識の欲望を露わにされることへの恐怖や心理的不快から、カウンセラーの解釈、ひいては治療そのものに対して敵対的、拒否的になるものと考えられるのです。カウンセラーの提案や助言に対して相談者が拒絶したり、カウンセラーの提案を受け入れると言いながら実行しないなどの抵抗がしばしば起こります。

抵抗の源は相談者の心の奥底、いわゆる無意識の領域にあり、無意識の領域にあるものを意識化させることがカウンセリング過程の重要な局面と言えるでしょう。

カウンセラーは相談者の「抵抗せざるを得ない気持ち」を探りながら、治療抵抗を克服していかねばなりません。抵抗を示している事実を相談者に提示することにより、相談者自身に自分の抵抗と直面させ、対決させ、乗り越えさせていくことが重要であると考えられます。


一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
わんわん相談員の詳細はこちら

SNSでもご購読できます。