グリーフワークの例

悲嘆からの回復プロセス(グリーフワーク)は 「誰にでも起こる正常な情緒的反応」であり、人それぞれの無意識の中で始まり、心の修復を実行して完了します。グリーフワークに共通するのは、「愛するものの死を受け入れることができるのは、かなりの時間が経過してから」ということです。



4段階モデル


「悲嘆からの回復プロセス」 として発表されている段階推移理論は、いずれもペット喪失の場合に限定した研究ではないので、以下の回復プロセスの例では、「ペットロスからの回復プロセス」として各項目の解説文を置き換えています。

( 1 )感情麻痺の時期 (ショックの段階)


・感覚が麻痺し、喪失の事実を受け入れられない。
・ショックのあまりに実感がわかない。
・何も考えることができず「冷静だ」と周囲から見られることもある。
・頭の中が真っ白になり現実と夢との区別がつかない状態。
・涙が出ない、感情が湧かない、足が地につかない、混乱状態が続く。
・何も考えられない、何にも集中できない状態。

( 2 )思慕と悲しみの時期 (悲しみの段階)


・喪失したペットへの愛と悲しみ、怒りが、心の中に溢れている状態。
・自分を責める気持ち、罪責感にとらわれる。
・周囲の人を責める気持ち、犯人探し、責任転嫁にとらわれる。
・思い出にふけり現実を認められない、空想と現実の区別がつかない状態。
・信じられない思いや受け入れられない気持ちの中で喪失したペットが生きているかのように振舞うことがある。
・激しく泣く、じっと悲しみをこらえるなど、人によってさまざまである、

( 3 )混乱と絶望の時期 (抑うつの段階)


・絶望感、深い抑うつ、空虚感が現れ、重篤な場合に希死念慮が見られる。
・周囲の事象への関心を失う、自分は価値のない人間だと思ってしまう。
・適応能力に欠ける、外出せず引きこもる。
・ペットの喪失を自覚し始めるが、まだ疑いの気持ちが消えない。
・なぜ死んだのか、なぜ自分だけが不幸なのかという思いが交錯する。
・隣人を憎んだり、幸せそうに見える他人に、恨みの気持ちを持ったりする。

( 4 )脱愛着と再起の時期 (立ち直りの段階)


・ペットとの死別を現実として認められるようになる。
・徐々にエネルギーが湧き、新しい希望が見えてくる。
・ペットのことを思い出しても動揺することが少なくなり落ち着いていられる。
・周囲との関わりを大切にしようと思えるようになる。

1 2段階モデル


哲学者アルフォンス・デーケンは以下の12の段階を挙げてグリーフワークの成り立ちを説明しています。

( 1 )精神的打撃と麻痺状態


愛するものの死に遭うと、しかもその死が急激であればあるほど、そのショックは大きく、一時的に現実感覚が麻痺状態に陥ります。頭の中が真っ白になって何もわからなくなった状能です。

この一時的な情報遮断状態は、心身のショックを少しでも和らげるための生体の本能的な防衛機制と考えられます。従って、普段とてもしっかりしていた人がこのような状態になったからといって、精神的におかしくなったわけではありません。一過性の現象であれば全く心配ありませんが、この状態が長引くようであれば問題があります。

( 2 )否認


愛するものの死を感情的に受け入れられないだけではなく、理性もペットの死という事実を否定しようとします。死ぬはずはない、何かの間違いだ、どこかで生きているのだ、そのうち元気な姿を見せるはずだと思い込みます。

この現象は、決して頭がおかしくなったり混乱しているわけではありません。ペットの死を感情と理性が受け入れられない時期があることを理解する必要があります。

( 3 )パニック


愛するものの死に直面した恐怖から極度のパニック状態に陥ることがあります。これもしばしば見られる現象ですが、一過性であれば問題はありません。

( 4 )怒りと不当感


ショックが少し収まると、悲しみと同時に不当な苦しみを負わされたという激しい怒りが生じます。交通事故や急病など突然の死の後では、この感情が強く現れます。交通事故などのように、愛するものの命を奪った相手がいる場合には、加害者に対する怒りが強くなります。また、病死で入院中に亡くなったりすると、怒りが医者に向かうこともあります。

なぜ自分だけがこんな不幸に遭わなければならないのかという不当感がつきまとい、自分にひどい仕打ちを与えた運命や神に対する怒りが表出されることが多いでしょう。逆に、この怒りの感情を外に向かって率直に吐き出せず、いつまでも怒りを心の中に留めていると、知らずしらずのうちに心身の健康を損ねてしまいます。従って、無理に怒りの感情を押し殺さず、上手に発散させることが必要です。

( 5 )敵意とうらみ


周囲の人々に対して、 敵意という形でやり場のない感情をぶつけます。特に、ペットの死に立ち会った医療関係者がその対象となることが多いでしょう。日常的にペッ トの死を扱う医療者側と、かけがえのないペットの死に動転している飼育者との間の感情の行き違いによる場合もあります。

最近は、動物病院でも医療ミスなどが問題となっており、医療者側と飼育者側との間に信頼関係がしっかり形成されていないと、とりわけ医療者側に対する不信や敵意が生じやすくなります。

( 6 )罪責感


悲嘆のプロセスが進むと、自分の過去の行いを悔やみ、自分を責めます。ペットが生きているうちに、もっとこうしてあげればよかったとか、反対にあの時あんなことをしなければもっと元気でいたかもしれないなどと考え、後悔の念にさいなまれます。

( 7 )空想形成ないし幻想


空想の中で、亡くなったペットがまだ生きているかのように思いこみ、実生活でもそのように振る舞います。ペットを亡くした飼育者が、亡くなったペットの食器や寝床を片づけられず、そのままにしているということもあります。

( 8 )孤独感と抑うつ


慌ただしさが一段落して、落ち着いてくると、紛らわしようのない独りぼっちの寂しさがひしひしと身に迫ってきます。人によっては、気分が沈んで引きこもってしまったり、だんだん人間嫌いになったりします。

これもたいていの飼育者が通らなければならない重要な悲嘆のプロセスです。しかし、この時期が長引いてしまうと、健康を損なう可能性があります。周囲の暖かい援助が必要で、早くこの時期を乗り越えることが大切です。

( 9 )精神的混乱と無関心


愛するものを失った空虚さから生活目標を見失い、どうしていいかわからなくなり、全くやる気をなくした状態に陥ります。

これも正常な悲嘆のプロセスの一部ではありますが、この状態が長引くようでは健康を損ねてしまいます。精神科医やカウンセラーなどの専門家の援助が必要となるケースがあります。

( 1 0 )あきらめと受容


日本語の「あきらめる」という言葉には、「明らかにする」という意味があり、この段階になると、ペットはもうこの世にはいないというつらい現実を「あきらか」に見つめて、ペットの死を受け入れようとする努力が始まります。受容というのは、ただ運命に押し流されるのではなく、事実を積極的に受け入れて行こうとすることです。

( 1 1 )新しい希望・ユーモアと笑いの再発見


ユーモアと笑いが再びよみがえってきて、次の新しい生活への一歩を踏み出そうという希望が生まれます。健康的な日常生活を取り返し、愛するものの死を現実の生活から切り離すことができるようになります。

( 1 2 )立ち直りの段階・新しいアイテンティティの誕生


悲嘆のプロセスを乗り越えるというのは、愛するものを失う以前の自分に戻ることではなく、苦痛に満ちた喪失体験を通じて新しいアイデンティティを獲得することを意味します。悲劇的な体験を創造的に生かすことで、人間的に豊かな成熟への道を進むことができます。


一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
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