ペットの終末期医療

ペットの終末期の医療のあり方については正解も不正解もないと言えるでしょう。それは飼育者が自らの気持をどのように整理できるかの問題であり、そこでの対応に悔いが残ると、飼育者がペットロスに陥ることが予想されます。



ペットの終末期に延命治療を行うことはもちろん可能です。延命治療では可能な限りの治療方法を積極的に試み、少しでも長く生きられるように治療を続けることになりますが、生命維持のために定時的な投薬や医療機器による処置を続けなければならないことから、入院を強いられる場合がほとんどです。

飼育者は病院に預けることによって安堵感を得ることはできますが、治療となると、深夜に容態が悪化して臨終に立ち会えないケースも覚悟しておかなければなりません。

尊厳死も選択肢のひとつです。尊厳死とは、ペットの苦痛を軽減するために鎮痛剤、鎮静剤などの投薬のみを行い、自然に死を迎えるまで介護する方法です。介護は自宅でも可能なことが多いため、家族全員でペットの最期を看取ることができます。ただし最期までの時間は不明であるため、飼育者への負担は少なくありません。

究極の選択


ペットの安楽死は、欧米では比較的多くの飼育者に支持されている方法と言って良いでしょう。国によって安楽死について制度上の差はみられますが、日本を含め、獣医学的な所見での正当な理由がある場合の安楽死については、ほぼ共通の認識で実施されています。

もともと日本と欧米では死生観が異なるために、安楽死についての議論は避けられる傾向がありました。ペットの終末期において、飼育者が安楽死を選択するケースは、欧米に比べて日本ではきわめて少ないのが現状です。

ペットの飼育者にはそれぞれ生活哲学、宗教観、自分の年令など一概に論じることのできない個別の事情がありますが、仮に自らのペットの安楽死を考えなくてはならなくなった時は、後々後悔することがないよう、熟慮を経た上で結論を出すべきでしょう。

下記のような点にわずかでも安楽死に疑問を抱いた状態では、安楽死を選択してはなりません。

〇ペットが重篤な病気の場合にはセカンド・オピニオン、サード・オピニオンを試み、症状及び予見について納得できたか。

〇回復の見込みが無いか、余命が短いか。

〇断続的であれ、ペットに激しい苦痛があるか。

〇深刻な経済的圧迫があるか。

安楽死を選択する決断は一人で行わず、必ず家族と話し合って行うようにしなければなりません。また、一度決断した場合でも、実際に安楽死が行われるまでに気持ちが変わった場合には、躊躇せず中止を申し出るべきです。

安楽死に立ち会うか否かはデリケートな問題ですが、可能であれば飼育者の家族が付き添っている状態で、最後の一瞬まで見届けることが望ましいでしょう。

臨終に立ち会い遺体に触れることで、飼育者がペットの死を現実として認識できるたけでなく、この世を去るペット自身も、家族に見守られながら息を引き取ることはこの上ない幸せと言えるのではないでしょうか。

ターミナルケア


ターミナルケアとは、回復の見込みのない患者の苦痛を緩和し、精神的に支え、生を全うできるように行う介護や医療のことで、人の医療現場で用いられる用語です。ペットの場合のターミナルケアは、正確にはターミナルケアをする立場にある飼育者を援助することを意味します。

ペットが重篤な病気で、回復の見込みがないことを宣告された飼育者が、ペットの死を予期することは精神的に大きな負担になります。

これから訪れるであろうペットの死に際し、飼育者が冷静な判断能力を維持して事態を乗り切ることができるよう、飼育者の心のケアを中心とした支援が望まれ、ペットロスを予防するためのカウンセリングの必要性が高まっています。

予期悲嘆


予期悲嘆とは、患者やその家族が死を予期したときに生じる喪失感や心理的反応を言い、ペットの場合は飼育者をその対象と考えます。

ペットの死が予期される場合、飼育者は現実の死が訪れる前に喪失感を抱き、悲嘆の反応を示すのが普通でしょう。

悲嘆反応は、ペット喪失に伴う多くの感情の組み合わせであり、喪失がもたらす心の傷を癒すのに不可欠な情緒的作業です。

予期悲嘆は、飼育者に精神的、情緒的な混乱をもたらす反面、ペットの喪失という現実を飼育者がゆっくりと時間をかけて受け入れていくことを可能にするという効用があります。

予期悲嘆によって飼育者が衝撃に耐える力を強め、心の準備が整えば、ペットの死が現実になった時の悲嘆を軽くすることができ、悲嘆のプロセスを順調に経過させることが可能となります。ペットの死後、病的な悲嘆に陥らず一日も早く回復するためには、ペットが生存中に十分な悲嘆を行うべきであると言えるでしょう。


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