「カタルシス」とは、ギリシャ語で「精神の浄化作用」という意味の言葉です。医学用語では、薬剤を用いて吐かせたり下痢を起こさせる行為のことを言い、体内にたまった汚物を体外に排出し、体内を浄化するという意味に使われました。
人は苦痛で屈辱的な経験、恐怖や罪悪感を伴う体験などを意識のうちに留めておくことは不快で、無意識にこれらの嫌悪感情を抑圧しています。しかし抑圧している感情が消滅することはなく、無意識の中で生き続け、精神作用に悪影響を及ぼすのです。また、苦痛な経験や嫌悪の感情を解消することが出来ない状態が長く続くと、心身症、ノイローゼなどの心的障害を負うことになります。
人がこれらの感情を追い出して言語で表現すると、過去の不愉快な感情や葛藤がその言語表現と共に体外に排出され、心の緊張が解放されると考えたのはフロイトです。催眠状態のヒステリー患者が無意識の中で抑圧していた不快な気持ちを言葉で表現すると、催眠から覚めた後に患者の症状が軽くなったことに由来し、カタルシスは「抑圧していた感情を解放することで癒される効果」を指す心理学用語として用いられるようになりました。
不安や緊張の原因となっている欲求や感情や衝動を、言動や行為を通じて解放させることを「カタルシス」と言い、カタルシスによって症状が消滅することを「カタルシス効果」と呼びます。
カタルシス効果
カタルシスは、もともとは古代ギリシャの哲学者であるアリストテレスが『詩学』に書き残した悲劇論から、「悲劇が観客の心に怖れと憐れみを呼び起こし感情を浄化する効果」を指す演劇学用語で、悲劇を観た観客が鬱積していた感情から解放される現象を説明するために用いたのが始まりとされています。
アリストテレスは悲劇の目的をパトス(苦しみの感情)の浄化にあるとし、ギリシャ悲劇が好まれるのは、悲劇を観ることで自分の心が浄化される(カタルシス効果)からであると説明しています。観客は、劇中の主人公の悲しみや苦悩に共感し、主人公の心情を自分のこととして一喜一憂した結果、解放感が得られ、精神の浄化作用を呼び起こす現象に由来します。
多くの人は、日常生活の場で落ち込んだ気持ちを人に話したら気分が楽になった、辛い心情を聞いてもらったら少し回復した、何らかの行動を起こして感情を表出することで癒された、などの経験を持っているのではないでしょうか。抑えていたものをカウンセリングなどで吐露することによって楽になるカタルシスの概念は、各種の心理療法において生かされており、治療効果が認められています。
カタルシス効果を期待したカウンセリングでは、カウンセラーは相談者の話を肯定的に受容し、不安や緊張を取り除き、相談者の「心の奥底にある感情」をすべて解放させることが重要です。
相談者が無理に明るく振る舞っていたり、平静を装っているようなケースでは、カタルシス効果は期待できません。相談者が封じ込めようとせず、率直にカウンセラーに吐露することのできる雰囲気作りが必要です。カウンセリングにおける対話の中で、相談者がペットの喪失にまつわる経過や心情をカウンセラーに語るということ自体、すでにカタルシス効果が認められると言えるでしょう。
また、カタルシス効果は心的外傷後ストレス障害(PTSD)の治療に応用されることがあります。心的外傷体験(トラウマ)に伴って無意識下に抑圧されている感情を患者に想起させ、それを言葉や行動で表現させることによって、抑圧された感情が外界に発散し、症状の改善が可能になると考えられています。
一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
わんわん相談員の詳細はこちら