ペットロス発現の背景

日本では、高度経済成長期以降、ペットと飼い主の関係は最も大きく変化してきました。この変化に大きく影響しているのは、それまで屋外で飼育されることが一般的であったペットが、室内に居場所を得るようになったことであると思われます。また、この時期に住宅の洋風化が進んだことも、ペットの室内飼育を容易にしました。

一億総中流時代の「ゆとり」の象徴として、マスコミが頻繁に大型犬の室内飼育の場面を取り上げたことから、特定の大型犬種がブームになる現象も起きました。

番犬であり、子供の遊び相手であり、また情操教育に役立つとの認識の範囲だったペットが室内で飼育されるようになることで生活伴侶(コンパニオンアニマル)という地位を得て、擬人化が加速されていきます。

家族の関わり方の変化とペットへの依存


また、この時期は「家族」の関わり方にも大きな変化が見られた時期でもあります。

高度経済成長を支えるビジネスマンの家庭での滞在時間は短くなる一方であり、また住環境が改善されたことにより家庭に個室が増え、それに伴い家族間の会話は減る傾向にありました。必然的に、ペットと最も長い時間を過ごすのは家庭の主婦でした。

すでに子育てを終えた熟年の主婦で、夫婦や親子、友人との関係がやや希薄な人ほど、ペットは我が子同然の存在になっており、ペットを失った時の悲しみや精神的な動揺が大きく、ペットロスの症状は深刻なものとなります。

ペットとの接触によって培われた深い愛着が、突然のペットの死によって行き場をなくし、深刻なペットロス症状を引き起こすのです。

ペットの家族化、擬人化、親密化


ペットロスの発現が中高年の女性に多い理由は、上記のようなペットとの密な依存関係の上に、女性特有の養育本能も関わりがあると考えられます。

中高年女性はペットを極端に人間化して扱う傾向が大きく、無意識の内に母親役を演じ、ペットとの間に特別な依存関係を築いていくことが多いと考えられます。

「子」としてのペットに「母」として自分の願望を投影し、過分な愛情を注ぎ、癒すことで癒され、慰められ、心の通じる唯一の存在と感じていく傾向が見受けられます。

人間の世界では 「子」 が 「親」 を看取るのが普通ですが、母親役の飼い主は子供役のペットを看取らなければならないことになります。我が子同然の扱いをしていたペットの死によって、身内の死に匹敵する悲しみを体験することによって、生活に支障をきたす飼い主が増えているというわけです。

近年のアンケート調査によると、ペットの死は「親が死んだ時より悲しい」とまで明言する飼い主が30 %にも達したといいます。

ペットの家族化、擬人化、親密化が急速に進み、ペットが人と対等の地位を獲得すると、「餌」は自然に「食事」と呼ばれるようになり、内容も人間の食事と同じレベル、あるいはそれ以上の質で用意されることもあります。

「おす」「めす」は、「男の子」「女の子」と言い換えられ、「犬」という言葉さえ避けられるようになりました。当初は違和感をもって論じられたペットに洋服を着せる行為も、短期間で当たり前の光景になりました。


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