動物実験と実験動物

マウスやラットを始めとする多種の動物が、主に人間の健康や医学のための実験に供されていることについてはご存知の方も多いと思います。これら動物実験の素材となる動物のことを 「実験動物」 と呼んでいます。


人間を使っての試験が人道上の問題により容易ではないことから、実験材料を動物に求めているものであり、これは世界共通の傾向といえます。人間の代わりに小型の実験動物を用いることは、体重あたりの投与薬物の必要量から見ても経済性で優れているとされています。

一方、1970年代より欧米を中心として動物実験に反対する運動が盛んになり、倫理的にも科学的にも疑問や反対の声が高まってきています。日本でも、動物愛護の観点からイヌ、ネコ、サルなどを用いた実験は減少する傾向にあります。

代表的な動物実験


〇 薬効試験


薬効試験は、新薬の開発には不可欠な試験です。

ある種の物質が生体と接触した場合に特定の刺激を与え、その刺激によって生体に特定の反応を生じた場合、当該物質を「生物活性物質」と呼んでいます。

薬効試験は各種の化合物の生物活性の内、薬物としての効果( =薬効)の有無や強さなどを測定する試験で、化合物のもつ質的、量的な評価を得る目的で行われます。

一つの化合物は、生体にとって有益な薬効を示すと同時に、しばしば有害な副作用を示すことがあります。こうした化合物の有用性の判断は「益」と「害」のバランスの問題として考え、さらに社会的、経済的な背景についても考察されます。

〇 安全性試験


薬物が生体に対しマイナスの効果を及ぼすものを毒性と言い、薬物の示す毒性の質と量を正確に把握する目的で行われるものを安全性試験と言います。

今日では、新医薬品の承認申請に際しては安全性に関する試験実施規定「GLP(Good Laboratory Practice)基準」を設け、試験操作の標準化、動物管理、記録とデータの保存、試験施設、機器等に関する遵守事項が定められ、試験データに関し公的に信頼性の確保がはかられるに至っています。

日本の化粧品メーカーは、過去に化粧品の原料として使用されたことのない成分を配合する化粧品を製造、販売する場合、厚生労働省から急性毒性試験、皮膚刺激 試験、光毒性試験、眼刺激性燾験など8種類の動物実験による安全性のデータを要求されます。

安全性試験には、急性毒性試験、半数致死量実験(L D 5 0 )、眼刺激性試験(ドレイズテスト)があります。

いずれの方法も動物愛護の観点から批判も多く、特にドレイズテストに対する反対運動は欧米を中心に盛んで、各国の議会で 「化粧品の動物実験廃止」決議などを引き出しています。ただし、化粧品の生産量の多いフランス、イタリアでは動物実験が続けられているのが現状です。

〇 生命工学的実験


最近特に注目を集めている分野であり、細胞工学や遺伝子工学とその応用技術を総称して生命工学と呼んでいます。

細胞工学の中心をなす「細胞融合」、遺伝子工学の中心をなす「遺伝子組み換え」など、先進医学の実験現場では、過去の実験で各種のデータが明らかなマウスを始めとする実験動物が果たす役割は非常に大きいといえるでしょう。

SNSでもご購読できます。