欲求とは何か

ペットロスに陥る心理状態を理解するにあたって、そもそも人の欲求とは何なのかを考えてみる必要があると思われます。

「欲求」とは、人や動物が、それを満たすために何らかの行動や手段を取りたいと思う場合、満たされた時には快を感じる感覚のことを言います。欲求はあらゆる動物の行動の原動力を示す概念であり、心の働きや行動を決定する際に重要な役割を持つものです。



内的、外的環境の刺激や変化によって人間の中には各種の欲求が生じます。欲求がすぐに充足されない場合は欲求不満の状態になり、情動的反応が起こって欲求充足の行動を開始するのです。

欲求は2つの階層に分けて説明されるのが一般的です。

「欠乏欲求と成長欲求」 「低次欲求と高次欲求」 「基本的欲求と二次的欲求」など、名称は異なりますが、低位階層の欲求は「動物の生命存続と種族維持のための身体的生理的欲求」であり、高位階層の欲求は「低位階層の欲求を充足した高等動物による社会的文化的な欲求」という考え方です。

基本的欲求


基本的欲求とは、大脳の発達した高等な哺乳類においては、ほぼ共通している生得的な身体的生理的欲求のことです。生命の維持に必須の基本的な欲求は「個体維持」と「種族維持」であり、それぞれはさらに分類が可能です。

個体維持欲求


呼吸、睡眠、飲食、排泄などの生理的欲求
苦痛の回避、快楽の追求、好奇心、防衛などの安全欲求
学習、探索、承認、遊び、優越などの自己表出欲求

種族維持欲求


性愛、配偶関係などの異性関係欲求
育児、母性、保護、依存、自立などの母子関係欲求
安全安心、援助、秩序、協同行動などの集団関係欲求

ニ次的欲求


動物が生きるためには環境の変化に対応し、危険から身を守り、食糧を求め、子孫の繁栄を図ることが必要です。自然界の動物にとっては基本的欲求の充足こそが生存の条件なのです。基本的欲求の充足を果たした高等動物である人類は、さらに欲求と行動の領域を増大させてきました。

二次的欲求は人間の思考力や想像力によって基本的欲求を拡張したもので「快」を追求し「不快」を避ける手段として満たされてきました。便利と快適さの追求は、安全、苦痛の回避、学習、遊び、優越など基本的欲求の延長上にあります。道具の制作、火の使用、言語の使用こそ人間の二次的欲求の本質です。

欲求と行動の関係


欲求は動物の本能的行動の動因であると言えます。ここで言う本能とは、生得的で経験に影響されない生まれつきの欲求と刺激受容、反応行動のことを言います。

たとえば新生児の吸乳は本能的行動ですが、その動因は空腹による飲食欲です。また動物行動学でいう「刷り込み」は、本能的欲求を動因とする依存行動です。空腹になれば食欲が起こり、食べ物に対する知覚が敏感になり摂食行動を起こします。

動物は危険が迫ればそれに対して生命の安全をはかる防衛行動をとります。仮に危険がなくても自分の置かれている状況を把握しておくことは食欲の充足のためにも有益で、万一の場合の危険回避のためにも必要です。

異性に対する関心が増せば、接触をはかろうとして情動の高揚がみられます。出産すれば新生児に対する愛着が込み上げ、母性行動が起こってくるのです。

これら多様な欲求を段階的に満たしていくことが、心身の健康を維持する上で大切なのです。

欲求レベルには個人差があり、基本的欲求が強いほどそれに相応した理性的能力も発達しやすい傾向があります。人間の文化的で多様な欲求は基本的欲求の基礎の上に派生的発展的に複雑化したものです。

フラストレーション(欲求不満)


フラストレーションとは、人の行動が目標に向かう過程で、何らかの理由で阻止される時に人が陥る状態のことを言います。

フラストレーションは「欠乏」「喪失」「葛藤」によって起こるとされています。自分のやりたいことができない、自分の欲しいものが手に入らない、相手が自分の思い通りの反応を返してくれない、他者と関わりたいのに関わることができないというのがフラストレーションの典型的な状況です。

人間はフラストレーションの状態に置かれると、不快な刺激となる怒りの感情を持ち、攻撃欲求が高まります。

フラストレーションが本人のフラストレーション耐性(欲求不満に耐えるカ)を越えて強くなりすぎると、怒りの感情や攻撃欲求をコントロールすることが困難となり、他人への攻撃や反社会的な不適応行動につながってしまうことがあります。

フラストレーションは不快で苦痛な心的状態です、フラストレーションを克服するためには、充足ができない欲求を満たすか、代替的な活動によって発散するか、その状況に対する自分の認識を肯定的に変容させるかの努力によるしかありません。

人はさまざまな欲求を満たすために環境や社会に働きかけるのですが、社会には多くの矛盾や欠陥などの妨害要因が潜んでいます。人生そのものがフラストレーションの連続と言えるのかもしれません。


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