犬は、自分の居場所をテリトリー(縄張り)と認識しています。そして自分の居場所によって、全く異なった態度を示します。
たとえば散歩途上の行動圏(=テリトリーの外)では他の犬に温和でも、自分のテリトリー内に戻ると他の犬に攻撃的に吠えたりしますし、トリミングサロンや動物病院(=未知の土地)では従順でも、送迎時や往診中(=テリトリー内)では反抗的であるなど、場所によって態度が変わるのです。
このような犬の特性を知り、空間認識についてトレーナーが充分に理解することは、トレーニングの効率を高めるために非常に大事なことだと言えるでしょう。
犬の空間認識と態度
A. 犬舎・家庭内・・・他犬の侵入があれば攻撃に出る。力の差があれば自己圧縮に転ずる。
B. テリトリー(縄張り)・・・他犬の侵入があれば攻撃的となる。劣勢ならば逃走する。
C. 行動圏・・・他犬の存在を許容できる。
D. 未知の土地・・・他犬と空間を共有する。
家庭での出張トリミングは困難であるとよく言われます。これは犬が未知の土地へ出向いた時の態度と、自分が家庭内(=テリトリーよりも内側)に来た場合には、明らかに攻撃性が違うためです。獣医師なども、往診の際には通常以上の警戒が必要とされます。
空間認識を理解してトレーニングに活用する
トレーナーが飼育家庭を訪問してトレーニングするというケースでは、初期の段階では犬をテリトリーの外に連れ出してトレーニングすることが望ましいでしょう。
飼育者が自らトレーニングを行う場合は、既に主従関係が出来ており、犬もそれを認識していますが、トレーナーがトレーニングを任される場合には、主従関係の確立と同じかそれ以上に、トレーニングを行う場所について考慮する必要があります。
何故なら、犬にとっては「未知のトレーナーがいきなりテリトリーの中に入ってきて、突然命令を下す」というようなことは、とても容認できるものではないからです。
もちろんトレーニングの成果は家庭での生活に反映されるべきですから、最後はトレーニングの場は家庭に戻すべきですが、最初のうちはテリトリーの外で主従関係を確立させ、徐々にテリトリー内に移動し、最終的に家庭内へ場所を移すようにします。このように空間認識を考慮しながら、段階を踏むことが効率的にトレーニングをしていくためには重要なのです。
空間認識の特殊な例
犬の空間認識の特殊な例もあります。例えば、場所としてはテリトリーの外であっても、家族が同乗している車の中などであれば、犬は自分のテリトリーとして認識します。家族がいることで自分の居場所とみなすのです。
極端な例としては、バッグやケージに入れられて「他人」によって未知の土地へ移動させられるような場合には、犬はバッグやケージの中を唯一のよりどころと認識します。そしてそこから出すことが非常に困難になる場合があるのです。そのような場合、無理に出そうとして咬傷事故に至ることもあります。
飼い主に抱かれた犬が狂暴になるというケースもあります。それは、犬が飼い主の威を借りて自分の支配する空間を作り上げようとした結果といえます。
日本ではしばしば犬が他の犬に吠える光景が見られますが、これは幼犬時から他の犬との接触を避ける飼育方法が取られているためで、その弊害といえます。
欧米のトレーニングスクールでは、一列に並んだ他の犬の間を縫って歩くトレーニングを、充分な時間をかけて行いますが、これによって他の犬への親和性が養われます。
動物の種類によっては縄張りがそのまま行動圏という例もよくありますが、犬の場合は行動圏がそのままテリトリーというわけではありません。これが、犬が他の犬と空間の共有ができる(=社会生活を営める)という証でもあります。
一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
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