犬のトレーナーとクライアントの関係

優れたトレーナーとは、犬にとっての良き指導者であるばかりでなく、飼い主(クライアント)にとっても良き助言者であることが求められます。


トレーニングが成功し、問題行動の矯正ができたとしても、犬の飼育環境や飼い主の言動が以前のままでは、トレーニングを終えたとたんに元通りに戻ってしまうこともあります。そのために、トレーニング後のクライアントへの助言は、トレーナーの大事な役割といえるのです。

問題行動矯正のヒントの多くは、クライアントとのコミュニケーションの中で見つかるものです。トレーナーが会話の出来ない犬に変わって、日頃の生活行動、生い立ち、好物などをクライアントから聞き出すことが、トレーニングの方針を決める上で重要な資料となるのです。

クライアントと犬のプロフィール


トレーニングの依頼を受ける際には、尋ねたいことを箇条書きにした質問表を作成しておくことが望ましいでしょう。トレーニングを開始する前に、クライアントの家族構成や、犬の生い立ちを詳細に知っておくことは、トレーニングの方針を決めるにあたって非常に重要です。

事前に質問表を飼い主に渡して記入してもらうのも良いですが、問題行動の原因になり得る部分については、飼い主の見解を鵜呑みにすることなく、トレーナーとして検討を加え、観察を続け、最確認を行うべきです。

そもそも、問題行動発現の原因が犬そのものにある事は稀といえます。多くの場合は、犬を取り巻く環境要因に問題があり、犬が動物的本能に基づいて行動している結果が、人間にとっての「問題」となっているのです。

犬と飼い主の関係や飼育環境は多様であり、同一のケースはないといえるでしょう。問題行動を発現する原因が定型的に断定できるものでないのですから、問題行動矯正の万能プログラム等は存在しません。

ですから、トレーナーがクライアントへの質問や面談を通じて、問題行動の原因を追求していくのです。

クライアントとの面談


トレーナーとクライアントとの面談には、出来る限りクライアントの家庭を訪問して行うことが重要です。そして、犬も含め、家族全員に参加してもらうのが効果的です。

その理由は、意外な人が問題行動を誘発していることがあるからです。たとえ日頃犬と接する時間が短い家族であっても、最も強く犬の行動に影響を与えていることがあるのです。

トレーナーは、飼い主家族の話はよく聞かなければなりません。正直な子供からの情報も貴重です。家族の誰もが犬について自由に話せる雰囲気を作るのが、面談時のトレーナーの仕事といえます。

自由に話せる雰囲気が出来上がってない段階で、トレーナーからの家族への詳細な質問をすることはあまり望ましくありません。なぜなら、トレーナーの質問が核心に迫ると、飼い主家族は、犬の問題行動の原因を作った責任を問われているような雰囲気になってくるからです。

誰かが誰かを「犬の世話をしない」などと非難する場面があると、その話を誰かが否定する場面が続きます。このようなやり取りは極めて重要で、家族の間の些細な意識のズレの上に、犬があぐらをかいていることが多いのです。

クライアントとの面談の際には犬と飼い主をよく観察する必要があります。トレーナーは、犬はどこにいるか、おとなしく座っているか、こちらの話に関心がありそうか、無関心かなど、気をつけておく必要があります。また、犬に対する飼い主の接し方も見逃してはなりません。

犬に同意を求める飼い主、犬を拘束し続ける飼い主、犬を探す飼い主など、面談の際には、犬と飼い主の問題点があらゆる角度から見えてくるはずです。

助言の方法


クライアントとの面談が進むと、すぐにでも改善すべきいくつかの問題点が見えてきます。

問題点を伝え、改善を促すことは、トレーナーとしては正当な行為なのですが、ここで伝え方に配慮を欠くと、トレーナーとクライアントとの関係に問題が生じかねません。

問題点をクライアントに伝えるには、慎重な態度が必要です。クライアントは犬との関係がうまくいっていないことを承知していますが、間違いを指摘されることを好まないからです。人は自分の考えや行動を非難されると、その考えを正当化しようとしたり、改善意欲を喪失してしまう傾向があるからです。

トレーナーがクライアントを見放すような言い方をするのは論外です。否定的な表現を避け、クライアントが親近感を持てるような言い回しで、建設的な指導を心がけることが大切です。

デモンストレーション


クライアントの犬を借りてデモンストレーションを行うことは大変効果的です。クライアントは自分の犬がトレーナーに注目し、正しく行動するところを見れば、自分の犬の問題行動は矯正できると理解します。

しかしトレーナーの経験が浅い場合には、クライアントの犬を扱い切れない可能性もあります。特に犬がトレーナーに対して不安を感じている場合は、デモンストレーション自体が失敗するばかりか、犬のストレスを読み取ることができないトレーナーであることを露呈する結果となってしまいます。

デモンストレーションを行う場合には、トレーナーは犬のテリトリーに侵入せず、クライアントに犬をトレーナーの下へ連れて行ってもらう方が、成功率が高いでしょう。

犬が強く興奮し、恐怖を示しているようであれば、クライアントに犬がストレスを感じていることを伝え、デモンストレーションを中止します。


一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
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