現在私たちが日常的に接している犬(イエイヌ)は、イヌ科動物であるタイリクオオカミの亜種と言う位置づけではありますが、哺乳動物の中では最も品種の多い動物です。
最も大きいセント・バーナード犬では体高70cm、体重90kg、最も小さいチワワでは、体高15~23cm、体重0.8~2.7kgと、品種による形態の差が大きく、これほど差の大きな動物は犬の他には見当たりません。
犬の品種は世界中に分布しており、その数も多様であるため、古くから多くの国で、それぞれの国の方式による犬の分類が試みられています。
2つの分類方式
犬の分類方式には大きく分けて「用途による分類」と「系統による分類」とがあります。
◆用途による分類
用途による分類では、古くはルネサンス末期、イギリスで「猟犬」「家庭犬」「愛玩犬」の3つのグループに分類することが行われてきました。
犬は古代より人間社会と深く関わりを持って生活しており、人間の生活形態の変化とともに、犬にもそれぞれの「役割」が与えられていました。すなわち、人類への貢献の歴史が犬の歴史であると言って良いでしょう。
この結果、人間側から見た用途によって犬を分類することが行われるようになり、現在多くの国の畜犬団体で採用されている分類方式は、おおむねこの考え方に沿ったものとなっています。
犬をその用途によって分類する方式は、それぞれの犬はその特性によって利用してきた人間側から見れば、極めてわかりやすいものと言えます。しかしながら、それぞれの犬種が原産国において改良作出され、長期にわたり国情に応じて使役されてきた経緯から、各国間で犬種の分類にはかなりの差異が見られます。
同一国内でも牧羊用途の犬種が、産業の革命によって他用途に転用されたり、物資輸送に役立った犬種が交通手段の発達によって不要となるなど、犬種の分類区分と実情が合わなくのなるケースも少なくありません。
狩猟(スポーツ)用犬の改良が熱心に行われてきたイギリスのケネルクラブ(KC)では、犬が猟に役立つか否かで大別することに始まり、さらに用途によって7グループに分類しています。
KCの分類
①ハウンド・グループ
②ワーキング・グループ
③テリア・グループ
④カンドック・グループ
⑤パストラル・グループ
⑥ユーティリティ・グループ
⑦トイ・グループ
世界最大規模の畜用犬組織アメリカン・ケネルクラブ(AKC)では、基本的にKCの分類区分を踏襲した上で、7グループに分類しています。
AKCの分類
①スポーティング・グループ
②ハウンド・グループ
③ワーキング・グループ
④テリア・グループ
⑤トイ・グループ
⑥ノンスポーティング・グループ
⑦ハーディング・グループ
KCのガンドッグはAKCのスポーティングに、ユーティリティはノンスポーティングに、パストラルはハーリングにほぼ該当しています。
KCのワーキングに分類されるジャーマン・シェパードやコリーがAKCではハーディングに分類される例や、KCではユーティリティのシーズーがAKCではトイに含まれるなど、国(団体)によって同一犬種が異なったグループに分類される例も少なくありません。
◆系統による犬の分類
犬は形態的に極めて多様に進化をしていますが、それぞれの犬種には、その元となった犬がいるはずで、各犬種の起源を探る研究も行われています。
古代エジプトの遺跡から発掘された遺物や、壁画に見られる「犬」はグレーハウンド型のものがほとんどで、イビザン・ハウンド、ファラオ・ハウンドなぜに酷似した犬が見られます。
現在ハウンド系の犬の原産国となっている各国の交易の歴史を見ても、古代エジプトはハウンド系の犬の発生地と考えられる考えることができます。
1950年、デンマークの湿地帯で遺跡が発見され、人骨とともに犬の骨も発見されました。この骨はトルクフンド(泥炭層犬)と呼ばれており、北欧地域をスピッツ、テリア、ピンシャー系の犬の発祥地と考える根拠とされています。
マスティフ系の犬の発祥地はチベット地域であると考えられ、戦争や交易の結果、早い時期にイタリアに渡り、マスティフ系の多くの犬種を残しています。
メキシカン・ヘルスに代表される無毛犬種の発生地は、アメリカから中米に移動したものとするアフリカ説と、アメリカ大陸発見前から中米にいたとする中米地域説に分かれています。
中南米を原産とする多くの犬種はヘアレスドック型の犬種に近縁です。
各犬種の発生地や進化の「系統」によって犬を分類する方法は、生物学的見地から高く評価されるものです。
フランスでは早い時期に系統によって19の犬種に分類する研究が行われていましたが、一般愛犬家の指示を受けていたとは言えません。
日本では、ジャパン・ケネルクラブ(JKC)が、平成6年4月からの従来の用途別の7犬種分類を廃止し、国際畜犬連盟(FCI)の分類に従い、犬の「系統」を重視した10グループ分類方式を採用しています。
JKCの分類
①牧羊犬
②牧畜犬
③テリア
④ダックスフンド
⑤スピッツ属
⑥獣猟犬
⑦鳥猟犬
⑧運搬犬
⑨愛玩犬
⑩視覚ハウンド
一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
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