犬の本能行動

現代においては、犬は「人類の最良の友」 と言われ、愛玩対象として家庭に迎え入れられることが普通となりました。けれど、決してそのことで犬が野生本能を失ってしまったわけではありません。

犬の野生本能は、飼育環境に関わらずその行動を支配しており、それらは日常的に観察することができます。

闘争距離


犬 (動物) は、 自分より優位の敵が一定の距離まで近づくと逃走する習性を持ちます。

ヘディガー教授により「逃走距離」と名付けられたこの距離は、両動物が置かれた種々の状況により変化し、敵の優位性が高いと逃走距離は比例して増大します。

限界距離


敵が逃走距離を越えて、さらにある距離以上に近付いたとき、攻撃を始める距離を「限界距離」と呼んでいます。

自然界では両動物が限界距離に達することは少なく、逃走距離に達した段階で一方の「逃走」により「攻撃」は回避されることが多いのですが、例外的に限界距離まで接近してしまうことがあります。

片方の動物が、隠れている時など不意をつかれた時にこの状態は起こります。隠れている動物は、敵に発見されると逃走の余裕はなく必死の攻撃を挑むことが多いものです。

動物を追いつめることの危険も同様で、逃げ場を失った動物はその動物本来の攻撃能力をはるかに越えた自暴自棄的な攻撃を仕掛けてきます。傷付いた動物を捜索する作業が非常に危険であるのはこのためです。

人間側の正しい認識が必要


日常的に発生する犬の咬傷事故の大半は逃走距離と限界距離に対し、人間側の正しい認識があれば回避できるものと考えられます。

鎖でけい留された犬による咬傷事故が多発するのは、逃走することができないからです。敵が乗り越えることのできない柵の内側にいる犬は、優位な動物が柵に接近しても攻撃対象と感じてはいません。経験的に柵が相当に長い限界距離の役割を果たしていると見るべきでしょう。

仮に優位な動物が柵を開いて中に入った場合、犬は突然に限界距離の侵犯を受け、攻撃に転ずることになります。

猛獣の檻に近付いて、柵の隙間から好物を与えることは容易にできます。このような状況下では、むしろ猛獣が好意を示すことも少なくないものですが、だからといって、猛獣が自分を受け入れていると勘違いして檻に入るような愚かな行為は避けなければなりません。

犬のなわばり(テリトリー)意識


犬は自分のなわばりとも言える領域 (テリトリー) を持っており、なわばりに近づいたり進入したりするものを警戒し、さらに接近した場合には攻撃する習性があります。

特に雄犬においてこの習性が強く、散歩時に高所に尿をかけようとするのもテリトリー主張の現れです。 (尿の臭気と高さによって、犬種と体格を計測するものと思われます)

犬はこの「テリトリー意識」ゆえに、番犬として人間に役立っています。

犬社会のボス


複数の犬を1 ヵ所で飼育する場合には、性別や大きさ、力関係により 「小さな争い」を繰り返し、自然に一定の順位が定まって、集団としての秩序ができあがります。

こうして定まった犬社会の「ポス」は、食べ物を1番にとる等の権利を行使しますが、集団に降りかかった危険に対しては1番に挑戦し、時には犠牲になります。

これは集団生活するあらゆる動物(人間を除く)に共通する現象です。集団の内部ではボスの地位をめぐる争いが繰り返され、ポスに事故がある時、またボスの支配力が衰えた時には、次の順位の犬がポスにとって代わります。

家庭内で飼育される犬も人間家族との関係に於いて自分の順位を定め、優位者には服従します。

犬の記憶力


「3日飼えば3年の恩」と言う諺がありますが、これは飼育環境や犬種に多いに左右される問題で、すべての犬にあてはまるものではありません。

犬の記憶力は神経質であることと比例すると考えられており、日本古来の犬種は一般的に先の諺通りの犬が多いといえるでしょう。

犬は嗅覚、聴覚により体験したものは相当に長く記憶しており、恐怖として体験したことは決して忘れません。

本能となごり


犬が食べ残しを埋める(栄養本能)のは、残った獲物を一時埋めておいたことのなごりと考えられます。但し、食餌が充分に与えられる状況下では再び掘り起こして食べることは少ないと思われます。

糞に砂をかける(防衛本能)のは、自分の存在を他の動物にさとられぬようにする防衛的手段のなごりと考えられます。また、犬舎から可能な限り遠い所で排泄しようとすることも同じ目的と考えられます。

走るものを追うのは、狩猟本能が刺激されるためで、牧羊犬は大のこの本能を巧みに利用したものです。

犬の遠吠え (警戒本能) は、緊急時の仲間との交信のなごりと考えられ、緊急車のサイレンなど、一定波長の音に反応することもあります。


一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
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