犬の歯の機能について見ていくことにします。犬の歯は古くから武器としての役割を果たしてきました。
「犬歯」は長く先端が鋭く、動物を咬んだ時に相手を深く傷付けることができます。歯根部は太く、カーブしながら半分以上を上下顎骨の中に収めており、強く咬める構造になっています。
「切歯」は先が尖り、食物を咬み裂く切刃として役立っています。
「臼歯」は人間の歯のように先が平坦ではなく、上下の歯がぴったり咬み合って肉などを引きちぎるのに便利な形態です。裂肉歯は上顎の第4前臼歯と下顎の第1後臼歯のことで、ハサミのように咬み合って肉を裂くことができます。裂肉歯は出産の際に臍の緒を切ることもできます。
犬科動物(肉食動物)では、馬や牛のように下顎が左右に動き臼歯で食物をすり潰すのに都合の良い顎関節の構造は見られません。犬の歯は物や子犬を咬んで運搬したり、選り分けたりと、人間の手や指の役割も兼ねています。
歯の組織
「歯肉」の外に露出している部分を「歯冠」と言い、歯肉に埋まっている部分を「歯根」と言います。
「エナメル質」はほうろう質とも言い、歯冠の外面を覆う真珠様白色のもので、リン酸カルシウム結品(ハイドロキシアパタイト)からできています。熱、電気の不良導体で知覚がなく、硬度は6 ~ 7度で、体の中で最も硬い組織です。その断面には各歯牙において発生期を同じくする並行条が見られます。
「象牙質」は歯骨とも言い、エナメル質の下層で歯の内部を形成します。象牙芽細胞が石灰化した組織で、象牙芽細胞の突起が歯髄から届いているため知覚があります。加齢に伴い象牙質の厚みが増していきます。熱、電気の不良導体であって極めて弾力性に富みます。硬度は4 ~ 5度です。
「セメント質」は白亜質とも言い、歯根を覆うセメント芽細胞よりなる白い骨状組織です。歯根部では歯根膜の線維がセメント質中に入り込んでいます。
「歯髄」は歯の芯の空洞 (歯髄腔) をうめる組織で、神経や血管、リ ンパ管を含み、最外層は象牙芽細胞が並び象牙質に突起を伸ばしています。歯髄は歯の知覚、栄養と象牙質の形成に関与しています。
「歯根膜」はコラーゲン線維からなる歯根と歯槽骨の緩衝膜です。
犬の歯の発生
初生仔における乳歯の発生は、消化器官で固形物の受け入れ態勢が整ったという合図で、離乳期の到来を示すものです。
乳歯は通常生後3週位から切歯が発生して、4週で犬歯、5週以上で前臼歯が生えそろいます。 生後3 ~ 6 カ月頃には乳歯が永久歯に生え換わります。
乳歯は順次、 歯の根が吸収されることにより自然に脱落し、そのあと永久歯がほぼ同じ場所に生えます。乳歯の根の吸収が不充分な場合、永久歯の歯並びが悪くなります。
永久歯への生え換わりは、小型犬より大型犬で早く始まります。乳歯は下の歯が上よりも早く、永久歯は上の歯が下よりも早く生える傾向があります。第1前臼歯と後臼歯は、乳歯が生えること無く直接永久歯が生えます。
犬の年齢は歯の色や磨耗の程度で推定することができます。白く鋭い歯は若い犬のもので、汚れてすり減った歯は年寄り大のものと考えられます。不適切な食餌を続けた結果や病気に罹った犬は、年齢の割に歯の減り方や汚れが著しい傾向にあります。
猫の歯は、切歯と犬歯は犬と同数ですが、前臼歯は上3本、下2本、後臼歯も上下各 1本で合計30本です。犬は猫に比べ12本多くの歯を持ち、骨格的にも顎骨が長くなっています。
犬の歯とオオカミの歯は同形で同数ですが、前臼歯のすき間が犬は広く、オオカミは狭いという特徴があります。オオカミの切歯はやや前方向に出ています。
欠歯と失歯
欠歯とは先天的に歯の萠出を見ないことを言います。短吻犬種では歯の生える顎骨が短いため、欠歯がしばしば見られ、前臼歯を欠くことが多いものです。
欠歯は近親繁殖の弊害と考えられてきましたが、野生の犬科動物や有史以前の化石でも発見されています。
欠歯とは逆に、永久歯数が定数より多い場合を過剰歯と言います。ポルゾイなどの長吻大種に多く見られます。
生えていた歯が後天的に失われた(脱落)場合を失歯と言います。原因の主なものは歯肉炎で、老齢小型犬に多く見られます。
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