犬の習性を理解する

動物には「習性」といって、それぞれの種に一般的に認められる行動様式、行動特性があります。犬を含むあらゆる動物は、環境の変化や刺激に対して定型的な行動を起こすことが多いのです。例えば犬がマーキングをしたり、動くものを追いかけたり、自分のテリトリーを守ろうとすることもその一例です。



犬の習性や本能を理解することの大切さ

動物の習性を知っておくことは、その動物を理解する第一歩といえます。例えば犬がとったある行動が、生まれながらにして備わったもの(生得的行動)なのか、経験を通して学習したもの(習得的行動)なのかを見極められるかどうかは、犬を理解する上で非常に大切なことであり、トレーニングを行う際にも大いに役に立つことでしょう。

それでは、生得的行動と習得的行動とはどのようなものでしょうか。

生得的行動

動物が生まれながらにしてとれる典型的な行動、経験や学習を必要としない遺伝的な行動のことを「生得的行動」といいます。例えば食べることや歩くことなど「本能的なもの」で、同種の動物では同じ刺激に対してほぼ同じ行動を取ります。

生得的行動には「反射」「走性」「本能」などがあります。

反射

何らかの刺激に対して自動的に身体の特定部位に起こる局部反応のことを「反射」といいます。例えば熱いものに触れた瞬間に手を引っ込めるとか、目の前にものが飛んできたら目を閉じるなど、反応が単純な動きのことです。

走性

刺激の方向に対して特定方向への移動や向きを変える動きのことを「走性」といいます。蛾が電灯に向かって飛ぶ走光性などがその一例で、特定の刺激に対して、移動反応が自動的に引き起こされる場合をいいます。ただし走性が見られるのは、主に昆虫類以下の動物です。

本能

鳥の渡りやサケの回帰など、その動物に生まれながらにして備わった行動のことを「本能」といいます。これはいろいろな種類の反射や走性などの組み合わせと考えることもでき、多くの条件に依存していることが特徴です。

習得的行動

生後、繰り返し刺激を受けたり、訓練によって身につけた行動を「習得的行動」といいます。例えば犬の「お座り」や「お手」などの行動パターンは、犬が生まれてから以降の経験を通して学習し、獲得した習得的行動です。

犬の場合、ある程度の高い知能を持っているため学習能力が高く、行動の多くを習得的行動が占める割合は高いといえます。

習得的行動には「学習行動」と「知能行動」があり、学習行動には「慣れ」「刷込み」「条件反射」「試行錯誤」があります。

学習行動


慣れ

同じ刺激を繰り返し与えていると、刺激に対する応答が衰えてくる過程のことを「慣れ」といいます。例えば巣にいる小鳥の雛は、孵化直後は何に対しても臆病ですが、日に日に慣れ、害がないと判断したものには避難行動を示さなくなります。

刷込み

例えばカモやキジの雛が、孵化直後に見た動くものを「母親」と認識し、後を追う行動など、生後間もない時期に形成される、修正が困難な学習の一形式のことを「刷込み」といいます。刷込みは、やり直しがきかないこと、適期に刷込みされないと欠損が起こる学習形式でもあります。また、刷込みは親子のきずなを確立するとともに、同種の個体を認識することに役立つものですが、誤った行動パターンを刷込みされた動物は、本来の同種社会の生活に支障をきたすことになります。

条件反射

犬に食べ物を与えると唾液が分泌されますが、食べ物を与えるのと同時にベルの音を聴かせると、犬は食べ物とベルの音を関連づけ、ベルの音を聴かせるだけでも唾液を分泌するようになります。これを「条件反射」といいます。この場合、ベルの音を「条件刺激」、唾液の分泌のことを「条件反応」といいます。

試行錯誤

ネズミや猫、犬などを迷路に入れると、初めは迷いますが、一度ゴールに着くと、次からは誤りが減っていき、短時間でゴールにたどり着けるようになります。人や動物が新しい問題状況に直面した場合にも、本能や習慣のままに行動し、失敗を繰り返し、偶然的に解決すると、以後はその方法のみに従います。このような習性を「試行錯誤」といいます。

動物が自発的に何かを操作した結果、餌などの報酬を得る学習のことを「オペラント条件づけ」といいます。このオペラント行動を利用して犬に自発的な行動をさせるトレーニング方法を「オペラント式トレーニング技法」といい、家庭犬のトレーニングに最も適した方法です。

知能行動

新しい状況に対して、経験からの類推、推理や予測をもとに摂る行動を「知能行動」といい、これは哺乳類のみにみられる高度な行動パターンです。例えばチンパンジーが箱を積み上げて高い位置のバナナを取るような行動は、試行錯誤の段階を経ることなく、突然起こることがあります。

知能行動は、霊長類やイルカに顕著ですが、犬や猫にもみられる問題解決行動です。


一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
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