犬の聴覚と平衡感覚

犬の聴覚は、嗅覚に次ぎ鋭い感覚です。犬の可聴周波数は15~50,000ヘルツで、人の16~20,000ヘルツに比べ極めて敏感で、特に人では不可能な超音波領域の振動を捉えることができます。

また音源に対する方向感覚も、人間では16方向であるのに対し、犬は32方向を区別して知覚することが可能と言われています。耳は外耳、中耳、内耳からなります。



外耳


「外耳」は、外界の音を集めるための耳介と、集めた音を鼓膜に導くための外耳道で形成されています。犬の耳介には前後左右方向に伸びる筋肉が重なっており、犬は自由に耳介を動かし集音効果をあげることができます。犬の外耳道は人のように水平ではなく、入口から一度下降してから鼓膜まで水平に続いています。

中耳


「中耳(鼓室)」は、鼓膜の振動を内耳に伝達するための中空の器官で、耳小骨(つち骨・きぬた骨・あぶみ骨)の組み合わせにより、鼓膜の振動を増幅、あるいは小さくして内耳に伝えます。中耳は耳管によって咽頭とつながっており、気圧差を調節します。

鼓膜は繊維質の膜で外耳道側は皮膚、中耳側は粘膜で被われており、空気粒子のごくわずかな振動にも反応します。あらゆる合成音による同時の振動をも中枢神経で分析し、複数の音として知覚します。犬の中耳には鼓膜張筋とあぶみ骨筋が見られ、聴音感度の調節に関与していますが、犬が大きな声で吠える時にはこれらの筋肉が働いて鼓膜の振動を抑制し、自ら耳を守っていると考えられます。

内耳


「内耳」は、骨迷路と呼ばれる管路と、骨迷路に内包される膜迷路と呼ばれる嚢からなり両迷路の間はリンパ液で満たされています。骨迷路は前庭、蝸牛、骨半規管からなります。

前庭は蝸牛と骨半規管を連結する卵円形の腔で、中耳側の窓(前庭窓)はあぶみ骨底で閉じられています。犬の蝸牛は螺旋状に3.25回転する管で、内部は上から前庭階、蝸牛管、鼓室階の3 段に分かれています。前庭階と蝸牛管の境を前庭膜、蝸牛管と鼓室階の境を基底板と呼びます。基底板上には聴細胞を多数分布するコルチ器官があります。

あぶみ骨に接する前庭窓が振動の伝達を受けると前庭階内のリンパ液に伝わり、前庭階を蝸牛頂まで昇りつめて鼓室階へ移り、鼓室階のリンパ液内を下り、蝸牛窓に至ります。これら一連のリンパ液の振動は、両階の間に位置する蝸牛管内のリンパ液とコルチ器官を振動させ、コルチ器官の聴神経刺激が、大脳の聴覚領に伝達され音として知覚されます。

平衡感覚


犬の体のバランスは内耳にある半規管の働きによって保たれています。半規管は3つの環状管が互いに直角の面に位置し、一つの半規管の平面にそって頭部が動くと、その半規管の中のリンパ液が頭の運動とは逆の方向に流れます。リンパ液の流れが中枢神経を刺激して頭部の運動方向を知ることにより、体格の平衡状態を保つ働きをしています。 (回転感覚)

半規管の終末には卵形嚢と球形嚢があって、内壁の一部に低く盛り上がった平衡斑があります。平衡斑には感覚毛が生えており、この上に炭酸カルシウムでできた平衡砂と呼ばれる小石が多数乗っていて、頭の動きに応じて平衡砂が感覚毛を刺激します。

平衡斑は加速度感覚器とも呼ばれるもので、頭の動きの方向や早さについても知覚します。平衡斑の平衡砂は感覚毛を常時引力方向に刺激しており、犬の静止時であっても平衡を保つことができます。(重力覚)

左右半規管からの興奮は常時平均化され、片側の興奮が大きくなった時、姿勢のずれを認知して調整されます。片側の半規管に障害が起こると、犬は体格の平衡を保てなくなります。


一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
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