犬の被毛

毛とは表皮から変化したもの(角質器)で、哺乳類に限って認められるものです。皮膚以上に犬の衣服としての役割を果たしているのは被毛であり、犬の体表のほとんどの部分は毛で覆われ、体温の維持に役立っています。


犬の毛は触毛と被毛に分けることができます。触毛はロ吻部から下顎を中心に発生し被毛に比べ硬く太いものです。

触毛の毛包には三叉神経が分布しており、野生の動物や猫、ネズミでは重要な触覚器ですが、犬の場合にはかなり退化しています。触毛は立毛筋を欠きますが、顔面の横紋筋によって随意に動かすことができます。

被毛は触毛をのぞく犬体の毛であり、出生時にすでに短く細い”ぜい毛”で覆われています。出生後6カ月頃までには終毛に生え変わり、成長と共に換毛を繰り返します。

被毛には主毛(オーバーコート)と副毛(アンダーコート)があり、1つの毛孔から1本の主毛と数本の副毛が発生しています。副毛の数は冬期には2 ~ 3倍の数に達します。又、マルチーズ種のように副毛を持たない犬種も存在します。

毛の発生


①表皮が真皮層内に陥入する。
②毛乳頭と毛球が形成される。
③毛乳頭の細胞分裂によって毛球が成長する。
④脂腺が発生し、毛が表皮層を突破する。

毛の構造


皮膚面から外に現れた部分を毛幹、皮膚の内側に隠れた部分を毛根と呼びます。
毛根の末端の膨れた部分を毛球と言い、毛根を囲むのが毛包です。
毛包は皮膚の表皮層が陥入したもので、皮膚と同じ構造を持ちます。
毛包には立毛筋、脂腺、汗腺が付属します。
立毛筋は細い筋束からなる平滑筋で、毛と皮膚面の鈍角側に位置しています。
副毛には立毛筋と汗腺が見られません。

毛球の下部には真皮組織である毛乳頭が入り込む形になっており、栄養を運搬する血管や神経が集中しています。
毛球と毛乳頭が接する毛球側に毛母細胞があり、分裂、増殖により新毛を発生させます。
毛幹、毛根とも外側から毛小皮、毛皮質、毛髄質で構成されます。
毛髄質は毛幹部では角質化しており、副毛には見られません。
毛皮質は毛の主成分で色素を含み毛色を発現します。
毛幹部の毛皮質は細胞間に微細なすき間を持ち空気を含みます。
毛小皮は毛の表面をウロコ状に覆う組織です。

換毛


犬の被毛は季節変化に応じ多くの犬種で春秋に換毛します。冬期の厚い被毛が不要になる春と、夏期のまばらな被毛に換わり、冬用の密な被毛を準備する時期にあたります。自然下では冬期に入ると、すべての主毛と多くの副毛が退行期、休止期に入ります。換毛の直接の原因は日照時間の変化や温度差で、自律神経、内分泌腺の働きによって起こります。

換毛は飼育条件によっても発現に差異があり、季節による温度差の少ない室内飼育犬では換毛現象が定期的に起こらない例も多くあります。逆に屋外飼育犬では短毛大種であっても冬期には被毛が長くなり、副毛の発生も多くなることが知られています。プードル、ペドリントン・テリアやプーリーのように、年間を通じ少しずつ換毛する犬種も認められます。

毛の成長速度は個体による差もありますが、Immの成長に2日を要するとされます。成長期過程では毛はカットされると毛髄質に刺激が伝わり、本来の長さまで伸びようとします。

換毛は毛乳頭の毛細血管の萎縮と回復によってコントロールされています。毛質や密度、換毛は脳下垂体や甲状腺ホルモンの影響を受けやすく、男性ホルモンは被毛密度を高め、女性ホルモンは拮抗的に働きます。

換毛


①成長期 毛乳頭の細胞が盛んに分裂して毛が成長する。
②退行期 毛細血管が萎縮し毛の成長が止まる。
③休止期 毛包が血管から離れ毛乳頭も後退する。
④換毛期 脱毛が起こり、毛母細胞の増翹によって新毛が発生する。

毛質と毛色


直毛では毛の断面が円形で毛制質加第央に位置します。
カール毛では断面が楕円や多角をなし、毛髄質が片寄り、毛皮質の多い方へ毛が曲がっています。
ウェープ毛では毛髄質の位置は一定ではありません。
毛皮質と毛髄質の割合は毛質に大きく影響します。
毛髄質が少ない毛ほど弾性に富みます。
副毛やぜい毛には髄質は見られず、太い長毛の毛幹部では髄質が散在する程度です。

犬の毛色は毛皮質内にあるメラニン色素の比率や毛髄質、毛皮質に含まれる気泡の量によって発現します。
気泡を多く含む毛は淡色に見えます。また、一般に長毛は両端部で淡く、中央部が濃色です。

紫外線の影響により、温暖で湿潤な気候は茶から黒色色素の形成を促し、冷涼で乾燥な気候は黄から褐色色素の形成を促します(グローガーの色彩の法則)。サモ工ド、ポルゾイ等、北方犬種の毛色は淡色であることが多いものです。

選択育種によって多様な犬種が生まれ、犬種によって被毛の密度や主毛と副毛の比率が大きく異なっています。ヨークシャー・テリアの被毛密度は、1平方センチあたり100本程度であるのに対し、北方のスピッツ系犬種では600本以上の密度を持ちます。ジャーマン・シェパードなど北方系で野生に近い犬種では、主毛の周りに多くの副毛をもち、犬本来の被毛の性状を保っています。

これに対し、南方で進化した犬種では、副毛の割合が低くなっています。剛毛が望ましいとされ育種された一部のテリア犬種では、副毛がほとんど見られません。逆に猫種における育種の結果では、主毛をほとんど持たない品種が作出され、1つの毛包から50本以上の副毛が生えています。

被毛は皮膚面の張力に影響されて一定の方向に生えます。 (毛流)
毛流が出合う場所では毛が直立したり、渦巻き状に譲り合って生えます。

特別な名称で呼ばれる被毛


飾り毛・・・耳や四肢、尾の長い羽根のような毛(パピョン)
頂毛・・・頭頂にある長い毛(アフガン・ハウンド)
フリル・エプロン・・・首や下胸の豊かで長い毛(コリー)
キュロット・・・大腿部後面の羽根状の毛(ポルゾィ)
プルーム・旗毛・・・尾の下面に垂れる長い毛(G・リトリバー)


一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
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