犬の起源

私たちが日常接している「犬」は動物分類学上、食肉目、イヌ科、犬族、タイリクオオカミ亜種の哺乳類「家イヌ」です。イヌ科動物を含むあらゆる食肉目の祖先は、約6,500万年前から4,800万年前に生息した森林性の小型捕食獣ミアキスであると考えられています。

ミアキス


ミアキスは体長約30cm、頭蓋骨6~9cmで、長く細めの胴体、長い尾、短い脚など、イタチに似た姿であったと推測されています。形態は、後脚が前脚より長く、骨盤は犬に近い姿をしていました。また、四肢の先端には、引っ込めることが可能な鉤爪を備えた5本の指がありました。

ミアキスは、同時期に生息した他の肉食獣よりも比率の大きな頭蓋骨を持っており、上顎の第4小臼歯、及び下顎の第1大臼歯は裂肉歯となっていて、現在の食肉獣の特徴を備えています。

当時、地上には、より大型の食肉獣が優位に生存していたため、ミアキスは樹上にとどまって生活していたと考えられています。おそらくは鳥類や爬虫類、同じ樹上生活者である小型動物等を捕食していたものと思われます。

ヘスペロキオン


イヌ科の古型とみられているヘスペロキオンは、3500万年前以降に生存していました。姿は、犬の基本型から見れば胴長短足で、尾は長く、足指はミアキスよりさらに地上の歩行に適すように進化していました。

さらに年月を経て「キノデスムス」「トマークタス」と進化して、家イヌの基本形が確立していきます。

現在は、トマークタスがイヌ科の直接の祖先であったと考えられており、さらに、他のイヌ科動物とイヌ属が分岐したのは約700万年前であると推測されています。

ミアキス → ヘスペロキオン → キノデクテス → キノデスムス → トマークタス

犬の祖先


イヌ属の直接の祖先はトマークタスで、第1指の退化した指行動物に進化しており、すでに野生犬の形態を認めることができます。

トマークタスからはキツネ属、タヌキ属などが分化発生しており、イヌ属はその基礎が約100万年前に確立したと考えられています。

トマークタス ・・・ イヌ科 ・・・ イヌ属 ・・・ タイリクオオカミ種 ・・・ イヌ


イヌ属の祖型から家イヌまでの進化の過程は、ヨーロッパや北アメリカなどにより出土する化石により推測することが行われてきました。

家イヌは形態的にオオカミ、ジャッカル、コヨーテに類似しており、さらに歯式と指趾数も同一です。

イヌ科の祖型以降の犬の起源については多くの仮説が立てられてきましたが、近年急速に発展した分子系統学に基づく研究、DNA分析の結果、家イヌは約15,000年前、東アジアで家畜化されたオオカミが期限だとする説が補強されることになりました。現時点では「イヌの祖先はオオカミである」とする説が一般的です。

イヌとオオカミとの関係


イヌ科動物を、ミトコンドリアDNAの塩基対の配列によって比較した研究で、イヌはオオカミと最も近縁であることが立証されました。

世界27ヶ所から集めたオオカミ162頭と、67犬種140種のイヌを用いて、同じくミトコンドリアDNAを比較した調査でも、イヌとオオカミの配列に大きな差はなく、系統樹には、さまざまなオオカミの亜種や犬種が入り乱れる結果となりました。

ミトコンドリアDNAの塩基配列の分析からは、イヌとオオカミを分類する事はできず、イヌとオオカミは遺伝学的には同じ動物であると結論付けられました。

その後の研究によっても、ほとんどの犬が共通の遺伝子領域を持ち、少なくとも4系統のオオカミの血が混じっている事がつきとめられました。

さらに各地に分布する犬の遺伝子型の分岐過程をたどっていくと、すべてイヌは約15,000年前、あるいはそれ以前に、東アジアで家畜化されたオオカミを祖先とし、これが人の移動に伴って世界中に広がっていったと考えられます。

アメリカ大陸の犬の祖先も、ベーリング海が陸続きだった12,000年から14,000年前にヨーロッパやアジアから人と共に移動したと推定されます。尚、アメリカ大陸の犬は大陸発見後にヨーロッパ人が持ち込んだと言う説は、現在では否定されています。

オオカミが犬に進化していく過程については、主として犬の外見によって論じられがちですが、オオカミと犬の遺伝情報の元となるDNAを比較した結果、外見がオオカミに近いジャーマン・シェパードはオオカミとは遠縁で、オオカミの面影のないチャウチャウは、オオカミと近縁であることが判明しています。

この調査により約5,000年前のエジプトで飼育されていたとされるイビザン・ハウンドやファラオ・ハウンドは、過去数百年の間に登場した新しい犬種であると発表されました。


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