遠隔操作とは、犬と離れた場所からトレーナーの指示通りにタッテ、スワレ、フセの姿勢の移行を組み合わせて行わせるトレーニングです。
遠隔操作は最も高度なトレーニングで、3つの姿勢間の移行「タッテからスワレ」「スワレからタッテ」「タッテからフセ」「スワレからフセ」「フセからスワレ」の6つの組み合わせがあります。
遠隔操作のトレーニング
遠隔操作のトレーニングでは、トレーナーの視符(ボディサイン)とタイミングがきわめて重要です。犬が何を要求されているのか理解するまで、リードによる誘導と、視符と声符を同時に組み合わせてトレーニングを行います。
このトレーニングに入るためには、犬が「タッテ」「スワレ」「フセ」の基本姿勢をしっかり正しく習得していることが必要不可欠になります。犬が「マテ」のトレーニングで「タッテマテ」「スワッテマテ」「フセテマテ」をすでに教えられていることも、同様に必要です。
一般的に犬に同じ場所で「タッテ」「スワレ」「フセ」などを繰り返させると、犬の体が徐々に前方に移動していくものです。実際、「スワレ」から「フセ」への移行でも、犬は前足を前方に移動することが最も運動量が少なく合理的に見えます。
犬にとっては自然とも言える前方への移動を禁じ、定められた前足のラインを越えることなく、これらの動作の組み合わせに従わせるのが遠隔トレーニングの目的です。
6つの移行を個別に教え始める段階では、トレーナーは犬の横に立ち、犬が習得したら犬の前方へ移動します。6つの移行を犬が習得した後に、トレーナーは犬から離れて教え始めます。
遠隔操作の声符
各々の指示を理解させるための声の調子は、きわめて重要です。
声符は「スワレ」「フセ」「タッテ」です。
「タッテ」の場合にのみ犬の名を呼んで、「タッテ」の声符を与えることが推奨されています。
これは犬を「フセからタッテ」へ移動させる際の手助けとなります。
トレーニング
①スワレからタッテ
犬を座らせ、トレーナーは犬の右側につき、左へ90度回転して犬と向き合います。
すべてのトレーニングを同様にここから始めます。
トレーナーはリードを左手に持ち、水平に保持します。
後方への移動を促すために、リードに軽く圧力をかけておきます。
トレーナーの右足を犬の前足の前方に置き、前方への移動を防ぎます。
タッテの声符を与え、同時にトレーナーはリードで軽く圧力をかけます。
犬が立ったら褒めます。
犬が自由にする前に、褒め続けながら5秒間くらいそのまま立たせておきます。
②タッテからスワレ
犬を立たせ、トレーナーは犬の右側に付き、左へ90度回転して犬と向き合います。
トレーナーはリードをほぼ垂直に左手で持ち、犬を後方へ導くために右足を犬の前足の前方へと滑らせます。
声符とリードによる誘導と、トレーナーの右足を補助に用います。
トレーナーの右足と犬の前足の接触はやさしくします。
「スワレ」の声符を、リードと右足の補助と同時に与えます。
犬を自由にする前に、褒め続けながら5秒間くらいそのまま座らせておきます。
犬が声符のみで座ることを理解するにしたがって、補助を行うことをやめます。
③フセからスワレ
犬を伏せさせ、トレーナーは犬の横に立ちます。
トレーナーはリードを左手にほぼ垂直に持ち、声符と同時に軽く後方へ引きます。
体重を左足にかけ、「スワレ」から「タッテ」を教えた時と同じように右足を犬の前足の前方に滑らせます。
左手のリードと右足の動きの組み合わせによって、前方への移動を防ぎ、後方へ座ることを促します。
犬に自信がついたら補助を与えるタイミングを変えます。
犬が声符のみで座ることを理解したら、補助を行うことをやめます。
④フセからタッテ
前方への移動を防ぐために、「タッテ」の移行は「スワレ」を経て行います。
トレーナーはリードを左手にほぼ垂直に持ち、犬が座るまで軽く後方に引きます。
左足に体重をかけ、右足を犬の前足の前方に滑らせ、座ることを促します。
犬が座ったらトレーナーの体重を右足に移動し、犬の前足が前方へ移動する兆候が見られたらリードで誘導します。
次に犬が「スワレ」から「タッテ」に移動するようにリードを水平に低く持ちます。
犬の名を呼ぶことと、トレーナーの足による補助は座るための手助けとなります。
座った時に聞こえる「タッテ」の声符は犬を立たせることになります。
「フセ」から「タッテ」の指示と補助は、犬の名を呼ぶことと声符、左手のリードと右足です。
立った犬を自由にする前に、5秒間くらい立たせたままにしておきます。
⑤タッテからフセ
犬を立たせ、トレーナーは犬の右側に付き、左に90度回転して犬と向き合います。
右手にリードを持ち、「フセ」の指示を与えると同時に犬が素早く伏せることを促すために左足をリードの上にやさしく置きます。
トレーナーの足に圧力をかけ過ぎて犬を伏せさせてはいけません。
ごく軽い足の圧力さえあれば良しとします。
犬を自由にする前に、犬をフセの姿勢で5秒間くらいそのままにしておきます。
犬が理解し、補助が必要でなくなり、声符のみで反応したらトレーナーは犬の前方に移ります。
⑥スワレからフセ
これは前方へ移動することが避けがたい科目であるので、座っている犬を自然のままに伏せさせてはなりません。
このトレーニングでは「犬が前方に移動しない」ことが最も大きな要素となっており、この移行のトレーニングにもトレーナーの右足の補助が必要です。
座った犬に「フセ」の声符を与え、同時に右足を犬の前足の前方に滑らせます。
声符と補助のタイミングが重要で、トレーナーは犬の前足の前方への移動を許してはなりません。
速く反応する
遠隔操作のトレーニングで最優先すべき事柄は、それぞれの移行が正しく正確に行われることです。
次にトレーナーの指示がはっきりと静かに与えられることです。
その上で、これらの移行の動作が、トレーナーの指示に反応して素早く行われることです。
正確であることと速いことは、このトレーニングで特に重要視される要素です。
トレーナーは犬の習熟度を観察しながら、徐々に各移行動作のスピードを上げていきます。
距離を伸ばす
犬が横と正面の両方からの指示に対し、完全に移行ができるようになったら、トレーナーは1回の練習ごとに1m程度犬から離れ始めます。
1回に1つの移行に集中することが大切で、犬が1つの移行に自信をつけたら、次の移行を同じ方法で教えていきます。
このトレーニングの共通の失敗は、犬が完全に習得する前に他の移行を組み合わせてしまうことです。
さらに悪い例は、犬が間違うまで続けることです。
移行を組み合わせる
服従競技の規則では、犬は「タッテ」「スワレ」「フセ」のどれかの姿勢で残され、3m以上離れた場所から6つの指示を与えられます。
これまでの練習によって個々の移行科目を取得したら、いよいよ各移行の組み合わせを教え始めます。
この際も1つの移行から他の移行へと、2つの組み合わせから始め、それから3つ、というように徐々に行わねばなりません。
犬を1つの姿勢で残し、トレーナーは1、2歩前進し、ターンして犬と向き合います。
犬を褒め、励ましながら他の姿勢の指示を与えます。
褒めて、犬のもとに戻り、また褒め、しかし犬を自由にしないようにします。
もう一度繰り返し、離れ、1、2歩遠くから犬と向き合います。
犬に他の移行の指示を与え、犬のもとに戻り充分に褒め、遊びます。
これで2つの移行を組み合わせることができました。
トレーナーは犬に自信を与えるために、それぞれの指示の後に必ず犬のもとに戻ることを思い出しながら3つの移行の組み合わせを試してみます。
徐々に距離を伸ばしていく一方で、同時に移行の組み合わせの数を変えます。
ある時は1つ、次は3つ、次は5つというように。
犬が経験を積んだ段階で、トレーナーは指示を与えた後、犬のもとに戻らずに遠くから犬を褒め、2つ目の指示を出します。
遠隔操作の初期のトレーニングは、トレーナーと犬の距離が短い所から開始し、徐々に距離を長くしていきます。
遠隔操作(試験)
①犬は脚側停座させる。
②犬を残し、右足から前進する。
③犬と対面する。
④渡された課題(順序)により犬を遠隔操作する。
⑤「タッテ」に際しては犬の名を呼ぶことが推奨される。
⑥課題を終えてトレーナーは犬のもとに戻る。
⑦脚側停座の位置で試験を終了する。
⑧充分に褒める。
一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
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