人が動物を見たり触れたりすることによって起こる感覚刺激は、視床下部を通じて大脳で認知され、過去の記憶との照合によって、自分にとって「好む」か「好まない」かを評価します。
この評価結果は視床下部に送られ、自律神経系、内分泌系を調整して「好む」場合には体がリラックスする方向に作用し、「好まない」場合には緊張させる方向へ作用します。
自律神経には交感神経と副交感神経があり 緊張(交換神経)とリラックス(副交感神経)が交互にバランスをとって働いています。
人体は、感覚刺激を「好む」ものと感じると、視床下部からの信号を経て、副交感神経が働き、脳の癒しホルモンと言われる「セロトニン」を分泌します。セロトニンは脳に癒し効果をもたらし、人体をリラックスさせます。
逆に感覚刺激を 「好まない」 もの (ストレス) と感じると交感神経が働き、副腎皮質からストレスホルモン「コルチゾール」を分泌します。
人体にストレスの負荷が続き、コルチゾール値の高い状態が続くと、身体機能だけでなく、心の状態にも悪い影響を及ぼします。
セロトニンとコルチゾール
セロトニンは生体リズム、睡眠や体温調節などの生理機能に関与するホルモンで、人の感情的な情報をコントロールし、精神を安定させる働きがあります。
セロトニン神経系の何らかの異常は気分障害、統合失調症、薬物依存などの精神疾患の発症や症状に深く関与します。
脳内にセロトニンが少なくなると、不安や不眠、衝動的行動が起こります。脳内セロ トニンレベルの低下、またはセロトニン神経系の機能低下が 「うつ病」 の原因であるとする説は、直接的な立証はされてはいませんが有力視されています。
精神疾患の多くの症状発現や軽減にセロトニン系が関与することから、セロトニンの量を調整する働きをする治療薬の開発が進んでいます。「うつ病」 に処方される抗うつ薬は、シナプス間のセロトニン量を増やし、症状を改善します。
副腎皮質ホルモンの一種であるコルチゾールは、炭水化物、脂肪、タンパク質の代謝を制御する生体にとって必須のホルモンです。
コルチゾールは人体がストレスを受けた時に放出されるホルモンですので、「ストレスホルモン」とも呼ばれています。
ストレスに反応して発散されたコルチゾールは、血圧を上昇させ、血糖レベルを高め、体内のナトリウム量を確保するなど、ストレスとの闘いに備えた生理活動をします。
コルチゾールが過剰なストレスによって多量に分泌された場合、白血球の減少、免疫機能の低下、脳の海馬の萎縮、セロトニンの分泌抑制など、心身の機能に悪影響が及びます。
精神疾患とアニマルセラピー
精神疾患は、統合失調症など重度のものから、神経症、適応障害といった中、軽度のものまでの様々な疾患を含みます。その原因には、心因、外因、内因の3つがあり、また複数の原因によることも多くあります。その内、心因性の精神疾患は、過度のストレスや不安、睡眠不足などの精神的原因によって発症します。
精神疾患の治療では、ストレスの緩和は症状の緩和に繋がります。アニマルセラピーは、現段階では、精神疾患の治療法として確立しているとは言えませんが、「ストレスの緩和」など、一定の領域で一部の患者に効果が得られています。
精神疾患の治療にアニマルセラピーを取り入れる試みは、まだ始まったばかりであり、それぞれの治療現場で独自にアニマルセラピーが試みられ、従来の療法を新しい局面から補助できる可能性が認められている段階にあります。今後は世界規模で学術的知見を統合し、広い範囲で活用可能な 「精神疾患の補助療法」 としてアニマルセラピーを構築していく必要があるでしょう。
一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
わんわん相談員の詳細はこちら