適応機制(その2)

適応機制には「防衛機制」「逃避機制」「攻撃機制」があります。さらにその中にも色々なものがあり、心の病と密接に関係して表現されます。



◆防衛機制


・代償(補償)


欲求が満たされない時、似かよった別のもので満足しようとする機制のことです。

通常欲求が100 %満たされることはないので、人の行動には補償的な行動であることが多いものです。自分の欠点や劣等感を感じている面に対して、他の面で優越感を感じることで心理的安定を図ろうとします。

勉強が苦手という劣等感を、得意なスポーツに打ち込み、他の人より優れることで補おうとするような場合のことです。結果的にその人にプラスになることも多いものですが、動機が劣等感を補償するための行為なので挫折しやすいと言えます。

強い葛藤があって、その不安や恐怖から逃れるための補償行為の場合、極度に熱中したり(過補償・過剰補償)、他のことをまったく無視する傾向があります。

・代償(昇華)


ただちに実現できない目標や衝動を、芸術やスポーツといった誰にでも認められる 高次の別の目標に置き換えて実現しようとすることで発散する機制のことです。

抑圧された欲求を、社会に受け入れられる価値ある行動へと置き換える機制で、補償機制の一種です。性的欲求や攻撃欲求など、社会的に容認されない欲求を、社会に容認される行動に置き換えて充足させます。

昇華は、人格形成上、望ましい形の「機制」のように考えられますが、本人が乗り越えなければならない苦痛は計り知れず、目標に到達できず途中で挫折した場合には病的な状況に陥りやすいと言えます。強靱な意志を持つ一部の人を除けば、他の機制に流れて行くケースが多いでしょう。

・反動形成


抑圧された衝動と反対の態度や性格を作り上げる機制のことです。

超自我が誇示するものに対し、自我がそれに応えようとする行為で、社会的道徳や倫理観に照らして、自我がそれに反するのを恐れて発揮される機制です。

抑圧した考えや感情が表面化しないように、本心と裏腹なことを言ったり、考えや感情と正反対の行動を取ったりします。敵意を抱いている相手に逆に親切にしたりする行動を言い、抑圧した憎しみの代わりに愛情が意識されることもあります。好きな異性に対する思いを抑圧したために無関心を装ったり、逆に意地悪な態度に出たりします。「慇懃無礼」な態度も反動形成です。

自分の心の不安から逃れることが目的の反動形成による思考や行動は、表現が大げさで不自然な形で現れる場合が多いと言えます。

・合理化


適当な理由付けをして自分を正当化しようとする機制のことです。

自分が受け入れたくない現実(失敗や欠点)を、受け入れられる形に変形して、自分の正当性を確保したり、他のものに責任転嫁をします。商売で失敗した時、安い輸入品に邪魔をされたとか、天候不順で客足が落ちたなどと言って、自分の失敗を認めない例などがあります。

イソップ寓話に、キツネは自分が届かない木の上にある葡萄を「高い場所にあるのはすっぱい葡萄だ」と口実をつける話がありますが、これも合理化の一例です。

葛藤や罪悪感を伴う行動を正当化するために、別の理由をつけて情緒的に安定を図ろうとする試みであり、困難に直面したり精神的に行き詰まった時に、誰にでも見られる行動です。

・同一化


名声や権威に自分を近づけ、自らの価値を高めようとする機制のことです。

他人の優れた能力や実績を、自分のものであるかのようにみなしたり感じたりします。スポーツ選手や有名アイドルの熱狂的なファンなどが典型例で、優れている他人と同じような行動をすることで有名人の気分になります。政治家と並んで撮った写真を誇示するなども例として挙げられます。有能者や有力者と同じ、という満足感や安心感で、不安や恐怖から目をそらそうとしているのです。

同一化が成功したとしても、自分の葛藤は解消されないのが特徴です。恐怖の対象となっている親や怪獣の真似をする子供には、自分を恐怖の対象と同一化して、攻撃されないようになるという心理的メカニズム(攻撃者との同一化)が働いています。

同一化は、子供の発達段階においては重要な適応機制と言えます。重要な人からの期待や価値観を取り入れることで、子供は社会的に適応可能になり、他者との同一化を通じてアイデンティティ確立の基礎を築くことができるのです。

・投影(投射)


自分の欠点を置き換えたり、他人のせいにする機制のことです。

自分が抱いている、他人に対しての不都合な感情を、相手が自分に対して抱いていると思うことを言います。自分が相手を憎んでいるのではなく、相手が自分を憎んでいると思い込むのです。

自分の心の中にある感情や不都合を、相手の心の中にあると思い込もうとするのが投影機制です。会社の同僚に嫌悪感を抱き続けているような状況で、自分の心に負荷がかかっている場合には、同僚が自分に嫌悪感を抱いていると考えた方が、心の平衡が保ちやすいのです。その場合、機制は無意識に行われるため自分自身が気づくことはなく、「同僚は自分を嫌っている」と疑心暗鬼に陥ることになります。

また、重度の病態の場合に起こる投影機制は、現実認識力の低下を伴うことがあります。

・置き換え


欲求を、本来のものとは別の対象に置き換えたり、方法を変更したりすることで充足する機制のことです。

実際に葛藤や怒りを感じる対象ではない代理のものに、自分が抑圧している葛藤や怒りを感じたり、ぶつけたりします。姑に不満がある妻が、直接姑には当たれないので、代わり夫に当たり散らして発散するというようなケースのことです。

上司に対する不満や怒りを抑圧している場合、同僚や部下、時には妻や子に対して発散する、いわゆる「八つ当たり」も置き換えの一種であり、また子どものいない夫婦が動物を可愛がったり、孤児院を経営したりするケースも広い意味での置き換えです。

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