適応機制(その3)

3つの適応機制のうち「防衛機制」を見てきましたが、それ以外の2つは「逃避機制」と「攻撃機制」です。逃避機制には「抑圧」と「退行」が、攻撃機制には「攻撃」があります。



◆逃避機制


・抑圧


実現が困難な欲求や苦痛な体験などを、無意識の領域に押さえ込んで心の安定を維持しようとする機制で、不安や不満、葛藤などの原因となる欲求や動機、記憶を無かったことにしたり、無理やり忘れようとする精神作用のことです。

抑圧は心理作用で最も代表的なもので、日常的におこる機制であり、他の防衛機制の基本となるものです。多くの場合、倫理的に禁止された欲求、性的な欲求などが抑圧の対象となります。抑圧が強く、広範囲に渡るほど、本来の自分から離れていくこととなり、さらに葛藤が増えます。

心の安定のための抑圧機制ではあるのですが、一時的には有効であるものの、長期的にはむしろ逆の作用を及ぼします。抑圧された葛藤は無意識のうちに蓄積されており、それが解決されたものではないために、繰り返し現れて意識を圧迫するようになるためです。

抑圧機制をもってしても葛藤が食い止められず、防衛機制を突破すると「不適応状態」となり、神経症を発症することにもなりかねません。

・退行


退行とは、精神が耐え難い事態に直面した時に、現在の自分より幼い未発達の時期に精神状態を後戻りさせて、自己を守ろうとする逃避機制の一つです。

幼稚な行動パターンに逆戻りしたり、未分化な思考や表現様式をとることで、自分の欲求を操作的に満たそうとする特徴があります。年齢にふさわしい人格を有する人が、あるきっかけで原始的、幼児的な思考状態に陥るケースがありますが、これは精神的にプレッシャーを受けた時、それを解決しなくても良い年齢の人格に行動を合わせるという現象です。

子供が、弟や妹が産まれると、母親の気を引くため赤ん坊のように振る舞ったり、今まで一人で出来たことができなくなってしまうケースや、ホームシックに陥った若者が、実家に帰ると親に甘えるケース、不安な心理状態では他人の話を鵜呑みにしやすくなるケースなども退行現象です。

退行の原因にはいろいろありますが、固着と大きな関係があるとされています。固着が強い人ほど自我が脆弱で、内的、外的圧力に弱く、退行しやすいと言えます。健康な退行と病的な退行は、固着点から正常な精神状態に立ち返ることが出来るかどうかで決まります。

またカウンセリングの過程において、精神は未熟な発達段階に退行することが分かっており、これを「治療的退行」と呼びます。

退行している発達段階を的確に分析することによって、相談者の心的外傷や問題状況が発生した地点を推測できるようになります。病的な退行は慢性的な機能の低下を引き起こしますが、治療的退行は治療に際して表出する一時的、可逆的な現象です。

他の防衛機制が、 自分の外部で現実的な解決をしようとするのに対して、退行は精神内で解決しようとする特殊な防衛機制と言えます。つまり、さまざまな防衛機制を尽くしても解決ができないと判断された時、自我は精神内部に救いを求めて退行を行うのです。

フロイトは退行を、後方陣地に部隊の一部を残して前進した軍隊が、強力な敵軍と遭遇して敗走し、後方陣地まで退却することに例えています。

◆攻撃機制


・攻撃


欲求が満たされない時の最も基本的、直接的な反応様式が攻撃で、特に年少者に多く見られます。他人や物を傷つけるなど、脅威を与えることで欲求不満を解消しようとする機制で、直接的なものと間接的なものとがあります。

上司の叱責に対し、逆に上司の非を責めるなどは直接的な攻撃機制です。直接相手に攻撃をすることが社会的に許されない場合や、攻撃しても歯が立たないなどの場合には、攻撃が別の対象に向けられたり、陰ロや告げロなど間接的な攻撃に転じます。

攻撃機制によって、一時的に緊張の解消が起こることがありますが、根本的な問題の解決には役立ちません。

また、攻撃が外部に向けられない場合、内向して自己攻撃の形を取り、自傷行為に至るケースもあります。


一般社団法人国際家庭犬トレーニング協会
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